この恋、予定外。
店長が私の隣を見る。

「あぁ、そうです。女性の化粧とか、俺はよく分かんないんで」

「メイクしない人は細かい話をされても…、ってところですかね」


彼はどうやら店長の言いたいことを当てたらしい。
表情がさっきに比べると全然違う。ダンボールはそのままに、完全に私たちの方へ体が向いている。

「…そっか。たしかに」

私はすぐに言葉を重ねた。

「軽いって言っても、人によって感じ方が違いますよね。なので、“どう軽いか”まで言えた方が伝わりやすいと思います」

タブレットを開き、簡単な例を見せる。

「皮脂を拾いすぎないとか、崩れ方がきれいとか。言葉を少し具体的にするだけでも、お客さんの判断材料になるので。もし感覚的なことの説明が難しければ、こちらで参考にできるポップや宣材用のお写真なども増やしていきます」

店長は腕を組んだまま、私の見せるタブレットをじっと眺めていた。

「けっこう最近は成分とか気にされる方も多くて。敏感肌の人が増えてきてるのかなぁ」

「それはあると思います。対応できるものを次来る時に色々お持ちします!」

「…ありがとうございます」

最初の空気とは、明らかに温度が違っていた。
さっきまで距離を測られていたはずなのに、気づけば普通に会話している。

…いや、普通ってなんだろう。


「じゃあちょっと…この前お客さんに聞かれたことで答えられないものがあって。それ、少し詳しく教えてもらってもいいですか?」

ついに店長から打ち明けられたその一言で、会話の流れが決まる。


質問と返答を重ねながら、売り場の意図と客層をすり合わせていく。言葉を選びながら話しているはずなのに、不思議と引っかかりがない。

そう思った瞬間、自分の中でなにか膨らんだ気がした。


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