この恋、予定外。
このまま帰れる。
それでいいはずなのに。

「…腹、減ったな」

ぽつりと、高橋さんが言った。

あまりにも自然で、ひとり言みたいな声だったから、最初は自分に言っているのか分からなかった。

「いい匂いもしますしね」

気づけば、反射で返していた。
そこらじゅう、飲食店だらけだ。誘惑がすごい。

「お昼も、急いでたから軽かったですし」

「だなー」

それだけの会話。
なのに、なぜかそのまま終わらない気がして、私は少しだけ足を止めた。

「…このへん、なんかあります?」

言ってから、ほんの一瞬だけ考える。
これ、私が夕食に誘ってるみたいじゃないか?
でも、もう遅い。

高橋さんは少しだけ視線を上げて、周囲をくるりと見た。

「この駅の裏に一軒、ある。でも…」

「なんのお店ですか!?」

ぐぅ、と思いきりお腹が鳴ってしまって、誰よりも腹ぺこなのは自分だと知らせているようだった。

「ラーメン屋。俺は好きだけど森川って」

「早く!行きましょ!ラーメンの気分でした!」

まだなにか言おうとしてたんだろうに、お腹がすいているあまり、遮ってしまった。


今日の流れからして、また牛丼屋だとか定食屋だとか、それくらいを想像していたのに、彼から出てきたのはずいぶんと分かりやすい選択肢だった。

でも、彼はちょっとだけ伺うような目をしていた。

「森川って、なんでも好きなのか?」

「えー?うーん…」

そんなことを聞かれると思っていなくて、なんとなく口から出たのは、迷いのない肯定だった。

「安くて早くて美味しい、が一番だから…ですかね?」

「…すげーな、男子高生みたいだ」

「そこは女子高生でしょうが!」


高橋さんはそれ以上何も言わずに歩き出す。
私はその隣に並んだ。


直帰のはずだった帰り道が、少しだけだけ違う方向へ曲がる。
その変化を、わざわざ確かめることもなく。
私はそのまま、ついていった。




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