この恋、予定外。
••┈┈┈┈••

朝の化粧室で私ひとり、洗面台の前の鏡の一角を占領していた。
人が少なくて、すべてが静かだ。
水の流れる音だけが、細く響いている。


鏡の前に立って、ポーチを開く。
昨日弾け飛んだそれは、まだ中身が整理されきっていなくて、少しごちゃついている。
リップは相変わらず六本入れていた。

中から、小さな容器を取り出す。

“LastFit 09”できたてほやほやの、試作品。さっきの朝ランで、受け取ったばかりのもの。


走って、止まって。
差し出された手と、短い会話。

指先に残っていた感触が、まだ消えていない気がする。


「よし。ちゃんと見ないと」

言い聞かせるみたいに小さくつぶやいて、手の甲に少量出す。
するり、と伸びた。

「…軽い」

思ったよりも抵抗がない。
07のときよりも、明らかに指の動きが滑らかだ。

そのまま、顔にのせると、なじむのが早い。
広げた瞬間、肌の上でふわっと薄くなる。でも、消えない。
ちゃんと残って、整えてくる。


鏡の中の自分を見る。

「カバーは…そこそこ」

完璧じゃない。でも、これくらいの方が自然だ。
指先で頬を軽く押さえる。
表面はさらっとしているのに、内側は少しだけしっとりしている。

「朝はいいかも」

小さくうなずいた、そのとき。


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