この恋、予定外。
扉がゆっくりと閉まる。
カチ、という小さな音が、思っていたよりも大きく響いた気がした。

さっきまで誰かがいたはずなのに、その気配が一瞬で消えて、同時に空気の密度が変わる。
同じ部屋なのに、少しだけ狭くなったみたいな感覚。


「こっち」

と高橋さんがまた先に歩いていく。慣れない空間の中で私は足取りがおぼつかないまま奥の作業台へ向かった。
私と違って彼の迷いのない動きを見ると、つくづくここが完全に彼のフィールドなんだと分かる。

その背中を追いながら、自然と視線が周囲に流れた。
同時進行で作られている、あらゆる試作品。
ファンデーションだけではなく、化粧品に関わるものすべてだ。

まだ形になっていないものや、興味本位で手に取りたくなってしまうほどキラキラしたもの、作りかけのものがたくさんあった。
ここにあるひとつひとつが、試して、直して、また試しての積み重ねなのだと考えると、少しだけ圧倒される。


「森川、ぼーっとすんな」

不意に声が落ちてきて、思考が引き戻された。

「してませんよ」

反射で答えてから、少しだけ言い方が強かったかもしれないと気づく。
振り返った高橋さんの目が、ほんの一瞬だけ細くなった。

「顔に出てる」

「出てません」

「出てるんだって」

短いやり取り。

それなのに、どこか噛み合っている。
この間、あんなことがあったのに、なにもなかったみたいに会話が続いていることに遅れて気づいて、胸の奥にほんの少しだけ引っかかるものが残る。

でも、それを言葉にする前に、彼が棚からひとつ容器を取り出した。


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