この恋、予定外。
言いかけて、少しだけ言葉を探す。

言葉はちゃんと出てくるのに、なにしろ近いのでそれが吹っ飛ぶ。
さっきから分かっているのに、改めて意識してしまうと、余計に逃げ場がなくなる。

悟られないように、急いで言葉をつむいだ。

「昨日のより、崩れ方がきれいになるかもしれないです」

なんとかそれだけ言うと、高橋さんはほんのわずかに目を細めた。

「…最初に森川が求めてたやつになりそう?」

「はい。たぶんですけど」

視線を戻して、もう一度手の甲を見る。

さっきよりも、落ち着いて見える。
ただ整っているだけじゃなくて、時間が経ったあとを想像できる仕上がり。


「……いいと思います」

小さく言うと、すぐ隣で空気が動いた気がした。

「よかった。じゃあ、もう少し詰める」

納得したような彼の声は、もう近くにはなかった。

ずっと横に、ずっと隣にいたのに、もういない。
そばにあった椅子に腰かけて、おそらく有言実行でLastFitの最終調整を始めたのだろう。

ちゃんと次に進んでいるのが分かる。
その流れが、妙に自然で。
まるで最初からこうやって一緒にやっていたみたいに思えてしまう。


…たぶん、私の役目はここまで。
今までの私なら、それで十分だった。

手の甲に残る感触を、もう一度だけ指でなぞる。塗りたてよりも、さらに落ち着いて見える。
本当にいいと思う。どんどんいいものになっている。ちゃんと良くなってる。

仕事としては、それで完結している。


< 151 / 180 >

この作品をシェア

pagetop