この恋、予定外。
「つまり─────」

朝倉課長が資料を軽く叩いた、そのタイミングでガチャ、と会議室の扉が開いた。

「すまん、遅れた」

低く落ち着いた声。
一瞬だけ、室内の視線がそちらへ流れる。

「桐山課長」

誰かが小さく名前を呼んだ。

「続けてくれ」

と言いながら、桐山課長は空いている席に腰を下ろす。
机の上の資料を一瞥しただけで、状況を把握したように視線を上げた。

「いま、どこまで来てる?」

「コンセプトと価格の最終調整」

朝倉課長が簡潔に答える。

「そうか」

短くうなずいて、それ以上は桐山課長も口を挟まない。
でも、その一人が入っただけで、空気がほんの少し引き締まるのが分かった。


先程の続き、とばかりに朝倉課長が切り出す。

「中身は“軽いけど頼れる”。見た目は“シンプルだけど埋もれない”。そのラインを狙う、でいいか?」

「はい」

マーケ部とデザイン部がほぼ同時に答えた。


朝倉課長が高橋さんを見る。

「高橋、どうだ?他には」

LastFitを作ったのは高橋さんだ。
最終的な調整を委ねる意味でも、課長の“どうだ?”は重い。

彼は、ふっとここで笑った。

「問題ないです」

短い返答。それだけなのに、不思議とその一言で最後のピースがはまる気がした。


会議室に、ひとつ息が落ちる。
ぴんと張っていた空気が、ほんの少しだけ緩んだ。



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