この恋、予定外。
「…これでいいですか」

高橋さんが首を振る。

「足りないなあ」

「なにが?」

「もっと笑って」

「無茶言う!」

「営業だろ?得意技なんじゃないの?」

その言い方!人の心ないじゃん!
私はむっとして、わざと大げさに笑った。

「これでどうですか!」

高橋さんが突然、すぐ後ろに近づく。
距離が急に近い。

私は思わず反射的に距離を取ろうとした…が。

「動くな」

警察さながらの言葉に踏みとどまる。

「偉っそうに!命令ですか?」

高橋さんは私の言葉なんて完全に無視だった。代わりに私の頬を指さした。
鏡には私と、すぐ横に立つ高橋さんが映っている。

「ここ」

指さされた頬を、私は鏡越しに見る。

「次は口閉じろ」

「今度は閉じるんですか?」

「歯が見えると動き変わる」

私は思わず変な顔になった。
罰ゲームみたいな、誰にも見られたくない顔をしていた。


そのまま数秒の間、高橋さんはじっと私の頬を見ていた。

そして、ぼそっと言う。

「うん。崩れてない」

私はずっと気にかかっていたことを、小さくつぶやく。

「…すみませんでした」

「なにが?」

「試作07、試しもしないで崩れるって言ってしまって」

頬を軽く押さえる。

試作を見ただけで発言するべきじゃなかった。
もう少し違う言い方もあったかもしれない。
でも、夕方には崩れる!と断言してしまった先日の会議室でのやり取りを、今さら後悔していた。


少し沈黙。

高橋さんは鏡を見たまま言った。

「別にそんなのどうでもいい。それに、まだ昼だ」

ポケットからスマホを取り出した彼が、時間を確認していた。

「え?」

「夕方にならないと、結果は出ない」

ここでようやく、高橋さんは私から離れて壁に背を預け直す。

「これだけで謝るなんて、油断するなよ」

私は思わずため息をついた。

「なんなんですか、そのテスト…」

高橋さんは真顔のままだった。

「検証」

…この人、ロボットみたいだ。


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