この恋、予定外。
開けっ放しの化粧室のドアの向こうから、

「森川ー」

と呼ぶ声が聞こえた。
この低い声。もう慣れた。

化粧室を出ると、廊下に高橋さんが立っていた。
さすがにこの大人数の女性社員が押し寄せている時は、侵入してこないらしい。

「どうだ?」

それだけ言う。
でも、たぶん彼のこの顔を見ると、化粧室での私たちの会話を聞いていたに違いない。

私は少しだけためらってから答えた。

「……崩れてません」

高橋さんはそうか、と小さくうなずく。

「まあ、想定内」

嬉しそうでもなく、満足そうでもなく、相変わらず淡々としている。

私はすぐに頭を下げた。

「すみません!」

視界に、私のローファーと彼の革靴が映る。

「07、崩れるって言いました」

「森川」

名前を呼ばれたので顔を上げたけれど、彼は私の顔なんて見ていなかった。

「07、方向は悪くない。08で詰める」

─────いや、もう次の試作の話?
私の謝罪はどこへ?

「え、まだ作るんですか?」

「当然」

「もう売れそうなのに?」

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