この恋、予定外。
だけどやはり、私の言葉なんて彼には届いていない。
もう高橋さんは次へ意識が向いていた。

「08の完成度も上げたいし、今回は収穫もあった」

思考回路があまりにも違いすぎて、私は目を瞬いた。

「ちょっと研究室戻るわ」

言うだけ言って、行ってしまった。

高橋さんは商品開発部でも、中身を作る人らしい。


私はその背中を見ながら思い出す。
桐山課長が言っていたあの言葉。

『高橋くん、あれで優秀だから』


─────悔しいけど。
やっぱりすごいのかも。



••┈┈┈┈••

駅前の居酒屋は、仕事帰りの会社員で賑わっていた。
焼き物の匂いが混ざった空気。
男女の笑い声。
そして、すこしのタバコのにおい。

グラスがぶつかる音が重なって、店の中はずっとざわざわしている。


私はビールジョッキを片手にテーブルに肘をついて、大きく息を吐いた。

「はぁーーー」

向かいに座っている瑞希さんが、静かにグラスを置く。

「茉央から聞いたことないね、そんなため息」

営業部で入社当時からお世話になっている、杉本瑞希さんだ。

黒髪のストレートが背中まで落ちている。
瑞希さんは昔から、姿勢まできれいだった。
営業部なのにどこか理系っぽい落ち着きがある人だ。


私と違っていつも地に足がついていて、そしてクールだ。


「もうね、つらいんです。ここ最近」

「あー、開発の高橋くん?」

「それです!高橋!…さん!」

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