この恋、予定外。
彼女はグラスに入った残り少ないサワーを口に運んで、「でもね」と続けた。

「部署が違うと交流もほぼないから」

「それは分かります、私も他部署の同期とは挨拶程度ですもん」

「茉央が言ってるほど怖い印象はないんだけどなぁ」

いやいや、とかぶせ気味に首を振ってみせる。

「ほんとに怖いですよ。なにしろ女子トイレ入ってきましたし」

さすがの瑞希さんも、これには動きが止まる。
顔をしかめて、ちょっとだけけんか腰になった。あの瑞希さんが。

「─────は?」

瑞希さんの方が怖いかも。
という言葉は飲み込み、代わりにビールを流し込んだ。

「どういう経緯で女子トイレに?」

「検証に来たんですよ!私が鏡で見てたら!顔の崩れを見に!」

「ヤッバ…」

「でしょ!?笑えとか、口閉じろとか!」

勢いに任せてバァン!とテーブルを叩いたら、上に乗っている唐揚げや焼き鳥が揺れた。
弾みで落ちたポテトをポイッと口へ入れる。

「私のこと、“サンプル”扱いですからね」

「あー。アッハハハ」

「なんですかその反応」

あんなにイライラしていた瑞希さんが、今度は笑っている。

「ごめんなんだけど、想像できるわ」

「もー、ほんとやだ。なんなんですかあの人!」

むしゃくしゃして、次から次へと唐揚げや枝豆を口に放り込んでいく。
両頬にパンパンにして、ため息まじりに「腹立つわぁ」とつぶやいた。


それと同時に、今日込み上げてきた感情をぐっと胸の奥から引き出す。

「悔しいけど…怖いけど…、頭も絶対おかしいけど。仕事はちゃんとしてる」

瑞希さんがそれを聞いて、少し笑う。

「たしかに頭はおかしいね、たぶん」

「そして、とにかく怖い」

「茉央、マジで怖いんだね」

そうですよ!とすぐ返したら、また吹き出していた。
今日の瑞希さんはよく笑う。


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