この恋、予定外。
営業職でいつも思うこと。
“売りたい”、重要なのはそれじゃない。
“いいものを、売りたい”。これだ。


一瞬、沈黙が落ちる。
店員さんが、面白そうに私たちを見ていた。

高橋さんは数秒だけ私を見てから、視線を逸らす。

「…じゃあ、やってみろ」
低い声だった。
挑発みたいに聞こえた。
でもなぜか、少しだけ楽しそうにも聞こえた。

「はい。望むところです」

私もそこは自信があったので、にやりと笑ってみせた。


高橋さんはふとテスターをひとつ手に取った。
キャップを外して、パフを軽く押す。

「これ、誰が使った?」

「え?」

覗き込むと、パフの色が少し混ざっている。

「酸化してる」

「それ言わないでください。テスターですから。不特定多数ですよ」

そこは割り切らないとどうにもならないところだ。
私が顔をしかめて言うと、やっとずっと黙っていた店員さんの出番。

苦笑しながら申し訳なさそうに肩をすくめた。

「本当はもっと頻繁に替えないといけないですよね…」

「頻度はどのくらいですか?」

「週一くらいです」

「足りないですね」

高橋さんは、店員さん相手でも一刀両断だった。

「テスターで印象決まるんで」

店員さんが恐縮したように小さくうなずく。
私はメモを取りながら、ぼそっとつぶやいた。

「…厳しすぎません?」

「普通だろ」

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