この恋、予定外。
••┈┈┈┈••


朝のオフィスの化粧室前。
まだ誰も出入りしていないこの空間。

廊下からも半分くらいは見えるだろうが、それは気にしない。
私は洗面台の前の鏡を独占している。


髪は高い位置でひとつにまとめて、片手にアイブロウペンシル。

ランニングのあとシャワーだけ浴びて急いで出社したから、まだ顔はほぼすっぴんだ。

とりあえず眉だけ整えようと思っていた。

右眉、完成。
左眉、未着手。

つまり今の私は、半分だけ人間である。


鏡の中の自分を見ながら、私は小さく息を吐いた。

「よし」

左眉に手をかける。
その時だった。


背後から早朝にも聞いた、低い声。

「おーい、森川ー」


反射的に勢いよく振り向いた。
そのせいでポニーテールのしっぽが顔に一瞬ぶつかる。

そこに立っていたのは─────
当たり前に、高橋さんだった。


「…ッッッぎゃああああ!!!!!」

自分でもびっくりするくらいの大きな悲鳴が出た。

廊下にまで響いたと思う。こだましている。
私は慌てて口を押さえた。

「は?なに?」

高橋さんは耳を押さえて不機嫌そうに眉をひそめる。

「なに?じゃないですよ!!」

私は鏡と高橋さんを交互に指差した。

「なんでいるんですか!!」

高橋さんは手に持っていたクリアファイルを軽く上げた。

「資料」

「資料!?」

「桐山課長が森川に」

「それ絶対、今じゃなくてもいいですよね!?」

私は急いで鏡を振り向く。

右眉、完璧。
左眉、虚無。

─────ああ、もう、最悪だ。


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