この恋、予定外。
高橋さんが静かに言った。

「朝、言った」

「なにが!!」

「会社で叫ぶなって」

ほぼ半泣きで訴えるみたいに首を振った。

「言われてません!!」

「言った」

「言われてません!!」
いや、たぶん言われた。


すると、廊下の奥からバタバタという慌ただしい足音。

「どうしました!?」

中年の男性警備員さんだった。
帽子をかぶり直したのか、つばを押さえている。

とんでもない悲鳴を上げてしまったことを思い出し、慌てて背筋を伸ばす。

「あっ、いえ、その…!」

説明しようとして、鏡を見た。

片眉。

私は再び叫びそうになるのを必死でこらえた。
横で高橋さんがぼそっと言う。

「眉、半分」

「見ないでください!!」

警備員さんは私と高橋さんを交互に見て、少し困った顔をした。

「……大丈夫ですか?」

私は全力でうなずいた。

「だ、大丈夫です!すみません!」

こんな状況だというのに、高橋さんはずいっと資料を私に差し出す。

「はい、これ」

私はもはや片眉だけではなく、心も虚無で受け取った。

「今じゃなくてもいいじゃないですか…」

高橋さんは私の顔を一度だけ見て、つぶやく。

「朝の方がマシだな」

「ねえ!もう!本当に最悪!!最低!!」

思わず叫んでしまって、また慌てて口を押さえる。
警備員さんがまだ思いっきりそこにいる。


「じゃ、塗装がんばれよ」

それだけ言って、高橋さんはくるりと背を向けていなくなってしまった。


私は半泣きのままで鏡を見る。
“塗装”…。ノンデリ。ノンデリすぎる。

半眉メイクは、たしかに見た目がひどいが。

ガックリ落ち込んでいると、後ろで警備員さんがぽつりと言った。

「さっきより声、大きかったですね」

私はその場で膝から崩れ落ちそうになった。




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