この恋、予定外。
「このお店、回転かなり早そうですね」

店長の視線が少しだけ動く。

「そうですね。このフロアは特に」

私のすぐ横で、高橋さんがぽつりと言った。

「ここ、触られてるけど売れてませんね」

ほんの一瞬だけ、売り場に視線を置いたまま続ける。

「テスターは減ってるのに、在庫が動いてない」


私は一瞬だけ、言葉を止めた。

営業トーク中に水を差すとかそういう温度ではない、高橋さんのいつもの事実を置く言い方。
私に向けたものではなく、明らかに女性店長に向けられたものだった。


彼の視線の先を見ると、中央の一角。
たしかにテスターは減っているのに、棚の在庫はそこまで動いていない。

店長の眉が、わずかに動いた。

「…たしかに、そうですね」

私は一歩だけ前に出る。

「…じゃあ、これって」

自分の中で、言葉を整える。

「試されてる数は多いのに、“選ばれてる”のは限られてるってことですよね」

店長の視線が、さっきまでとは違う場所にある。
商品ではなく、私を見ている。

「どういう意味ですか?」

試されているのに、それでも選ばれない。
それはつまり─────

「試して満足して終わる商品が多いってことです」

はっきり言ったあと、少しだけ間を置く。

「…ここって、“気になって触る”までは早いと思うんです。でも“買う理由”が弱いと、そのまま流れていってしまう」

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