この恋、予定外。
店長は腕を組んだ。
否定ではない。考えている顔。

「…そう言われると、回転は早いけど在庫の減りは偏ってますね」

「ですよね。なので、このゾーンに入れるなら、“選ばれる理由”を作らないと難しいと思います」

私はトートバッグからタブレットを取り出す。

「例えば、同じ価格帯でも“仕上がりの分かりやすさ”を前に出すとか」

彼女によく見えるように隣に移動して画面を見せる。自然に店長も身を乗り出すのが分かる。

「あと、ここですね」

棚のポップを指す。

「テスターはあるのに、使用感の説明が少ないんです」

店長が次はそちらを見る。少し驚いたような、わずかな動揺も混ざっていた。

「たしかに……言われてみれば」

「このフロアって、“触る”ことは前提なんですよね」

だからこそ、と彼女に向き合う。

「触ったあとに、“選ばせる導線”が必要だと思います」


少しだけ、沈黙が落ちる。
そのあと、店長がふっと息を抜いた。

「…なるほど」

さっきより、明らかに声の温度が違う。

「今の話、もう少し詳しく聞かせてもらっていいですか?」

「もちろんです」

私は小さくうなずいた。


その横で、高橋さんは何も言わない。
ただ、売り場を見ている。

でも彼の初手の一言で、空気は確実に変わっていた。


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