この恋、予定外。
会話が流れ出す。

質問と、返答。
売り場の話。客層の話。

気づけば、さっきまでの距離はなくなっていた。


「…そうですか。じゃあこのゾーン、もう少し絞った方がいいってことですね」

店長はいつの間にかメモを取っていた。
綺麗なメイクに綺麗なネイル。几帳面な人なのだろう。

そんな彼女がメモを取りながら、ふと顔を上げた。

「……あの、すみません」

「はい」

「さっきの名刺、いただいてもいいですか?」

一瞬、言葉の意味を取りこぼしかける。それから私は、すぐに名刺入れを開いた。

「もちろんです!ぜひ、よろしくお願いします!」

そう言って差し出すと、店長も自分の名刺を取り出す。

「店長をやってます。こちらこそ、よろしくお願いします」

さっきよりも少しだけ柔らかい声に、ほっとした。
あたたかかい気持ちと、達成感が湧き上がる。

名刺を受け取りながら、小さく頭を下げた。

その横で。
高橋さんは、相変わらず何も言わなかった。


ただ一度だけ、売り場から視線を外して、こちらを見た気がした。




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