この恋、予定外。
店を出ると、外の空気が頬を撫でた。
風に吹かれて、朝きつくまとめた髪の毛のしっぽが揺れる。

「森川、久しぶりに組んだけど、けっこうやるじゃん」

隣で石田先輩が嬉しそうに笑った。

「今の、完全に刺さってたよ」

私はまだ変に騒いでいる胸を押さえて、小さく息を吐いた。

「いや、さすがに……ちょっと緊張しました」

「マジ?見えなかったけどな」

あはは、と軽く笑われる。


歩きながら、私は自分の手を軽く握った。
ちゃんと、できたと思う。


言葉も。
タイミングも。
全部、噛み合っていた。

昔から知っている先輩とだからこそ、やりやすかった。
スムーズに、ちゃんと届く。

…なのに。


「でも」

気づいたら、口に出ていた。

「ん?」

少しだけ言葉を探す。

「……なんか、違うんですよね」

うまくいったはずなのに、どこにも引っかかりが残らない。

自分でも分からない。
ただ確かにある、“違う”感情。


私の言葉がひとり言だと思ったのか、石田先輩は一瞬きょとんとしてから、笑った。

「なんだそれ」

軽く流される。


私は前を向いた。

さっきの店のことを思い返す。
ちゃんとできた。結果も出せた。それなのに。

…どこか、足りない。


その“足りなさ”の正体には、まだ気づかないまま。
私は次の店へ向かった。




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