この恋、予定外。
••┈┈┈┈••

営業フロアの一角で、私は資料をまとめていた。
パソコンのキーボードを打ちながら、今日一日のことを思い出す。

今日の外回りの結果。
売り場の写真。
店長の反応。

ひとつひとつ整理しながら、言葉に落としていく。


「森川、それさ」

横から声をかけられる。

顔を上げると、石田先輩が資料を覗き込んでいた。

「この棚の見方、いいと思うけど」

「はい」

「でもここ、ちょっと弱くない?」

指で画面を指される。
先輩の言いたいことは、すぐに理解した。だけど、私の意図と少し違っていた。
一瞬だけ言葉を探し、キーボードに乗せていた手を引っ込めた。

「…ここ、たしか」

頭の中で売り場を思い出していた。

テスターの減りや、配置、客層。記憶に残っている空間を浮かべて、切り取る。

「テスターは触られてるんですけど、実際に選ばれてるのは隣のゾーンで」

少しずつ言葉を繋ぐ。

「こっちは“比較対象”になってるだけだと思いまして」


石田先輩が少し驚いたように「なるほど」とうなずく。

「だから、このまま置くなら、もう少し“選ぶ理由”をはっきりさせた方がいいかなぁと」

「うん、いいじゃん」

彼はすぐに褒めてくれた。
どこかの誰かとは違って、分かりやすく。

「すげーよ。ちゃんと見えてるな」

「まだまだです」

久しぶりにこんなにちゃんと褒められて、ちょっと照れてしまって笑みをこぼす。

先輩はもう、自分のデスクに戻っていて、なにか別の作業に取りかかっている。


これが、たぶん“普通”なんだと思う。


キーボードに視線を戻して、自分の手を見下ろす。
ずっと胸にある違和感の正体。
分からない。

できている。
答えも出せている。


だけど、ほんの少しだけ。
“言葉にするまでの時間”が、長い。

私はその違和感を、深く考えないようにした。




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