この恋、予定外。
彼が言っていることは、いつも短くて、そして正しい。
久しぶりに実感して、妙に心地がいい。

「そうですよね…」

短い返事をして、パソコンに向き直る。

ふらっと現れて、ふらっと私の仕事を見て、ふらっとなにか言う。いつもそう。

でも全部、繋がる。


昨日、外回り先の売り場で一人で見ていた。
店長の反応と、自分のメモ、そしてどこかに引っかかるノイズみたいなざわつき。

ばらばらだったものが、一瞬で一本になる。

キーボードを打ちながら、不思議と心がまっすぐになった。
さっきまでの“少しのズレ”が、ない。

思考が、そのまま言葉になる。

「じゃあ、ここ少し軽く振った方がいいですね」

「そうだな。それがいい」

即答。
高橋さんはいつも、迷いがない。


私は一度だけ手を止めて、ちらりと彼を見やる。
どうでもいいことを言うみたいに、でも、どうでもよくないことが先に出た。


「あの、お久しぶりです」

「─────は?」

彼が眉を寄せて、なに言ってんの?とばかりに壁に背中をつけた。

「今、それ?」

「え、だってめっちゃ久しぶりですよ。気づいてないんですか?」

たぶん、言われて気づいたのか、彼はようやくフロアに貼られているカレンダーに視線を送っていた。

「…そうだっけ」

「そうですよー」


私はあえて感情を乗せない声を出して、またキーボードに視線を戻した。


高橋さんはもう興味を失ったみたいに、自分のデスクへ戻っていく。

その背中を、ほんの一瞬だけ目で追ってしまった。


「“そうだっけ”、か…」

その軽さに、少しだけ取り残される。


自分の感情が、よく分からない。
ふと目を離すと、もう彼の背中はどこにもなかった。





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