この恋、予定外。
「もう、なにやってんの」

小さく吐き出した声が、自分でも少し荒い。
誰に向けたでもない、自分に向けた言葉が、口からこぼれ落ちる。
でもそのまま、指を止めずに打ち続けていた。


「森川さん」

デスクの向こうから、また佐野の声。

「どうしたの?」

尋ねたけれど、佐野は何か言いかけて、やめた気配がした。

たぶん、私の今の自分へのつぶやきを聞いたんだと思う。
一瞬だけ、空気が揺れるのが分かる。

「ごめん、私もいま入力ミスっちゃって」

いつもの感じで返したつもりが、佐野にはそう受け取れなかったらしい。


「…本当に、すみません」

さらに彼女の声は小さくなっていた。
私は手を止めないまま、言う。

「だから謝るのはいいって言ってるでしょ」

少しだけ、口調が強くなってしまった。
言ったあとで、ほんの一瞬だけ、目を閉じる。


─────ああ、今の。だめだ。最低。

分かってる。
今の言い方は、絶対によくない。

分かってるけど。
もう言ってしまったから、戻せない。
こういう経験も、何度もしてきた。


「……大丈夫だから。続けよう」

自分で自分を整えるみたいに、言葉を重ねる。
はい、とか細い返事だけが向こうから聞こえた。


< 93 / 180 >

この作品をシェア

pagetop