君の手が動く限り、俺は隣にいたいから
コンクリートの床に倒れ込んだまま、凌は迫り来る彼女の異様な気迫に完全に圧倒されていた。
痛む肘を庇うことすら忘れ、ただただ口を開けて呆然と彼女を見上げる。
目の前にいる少女は、今や完全に理性を失い、狂気と絶望の狭間で激しくのたうち回っているように見えた。
「何も、何も知らないくせに……!」
彼女は口元を押さえていた手を引き剥がし、ひび割れた声で叫び散らした。
その瞳から大粒の涙が溢れ、蒼白な頬を濡らしていく。
「私がどんな想いで絵を描いているのか知らないくせに、偉そうに言うな! 紫もあんたも、みんな揃って才能だの何だの都合のいい言葉で片付けてさあ! そんな、そんな簡単なものじゃない、私のこれは……!」
「待って、落ち着けよ! どうしたんだよ一体!?」
凌は必死に声を張り上げ、宥めようと手を伸ばす。
しかし、今の彼女には凌の声など、自らを脅かす不快な雑音にしか聞こえていないようだった。
「邪魔しないで!!」
彼女は自分の両手で頭を掻きむしるように強く抱え込み、さらに激しく狂ったように叫び続けた。
「私には、これしか無いの……! 画材を持って、こうして空を描くことしか残されていないの! これまで奪われたら、私は私じゃいられなくなる……! そうなったら、私は……私は……っ!」
言葉にならない悲鳴が屋上の虚空に消えていく。
その姿は、何かに激しく追われ、逃げ場を失って追い詰められた野生の獣のようでもあった。
「邪魔しない、邪魔なんて絶対にしねぇから! 俺が悪かった、土足で踏み込むような真似して悪かったよ! だから謝るから、頼むから一度落ち着いてくれ!」
凌は床に膝をついたまま、必死に懇願した。
これ以上彼女を刺激すれば、彼女の精神そのものが粉々に砕け散ってしまうのではないか。そんな本能的な恐怖が凌の背筋を駆け巡る。
だが、彼女は頭を抱えたまま、拒絶の言葉をナイフのように鋭く突き放した。
「私には、時間がないの!!」
その言葉に、凌の身体が凍りつく。
前に語られた『時間がない』という言葉。それは単なる締め切りのようなものではない、もっと残酷で、決定的な、抗えない終わりの気配を孕んでいた。
「あんたに構っていられるほど、私には一分一秒の余裕もないの! もう消えて……! 私の前に現れないで! 私の時間を、これ以上汚さないで……!!」
――ゴォ、と。
まるで彼女の激情に呼応するかのように、一際強い、冷たい突風が屋上を吹き抜けた。
重く垂れ込めた曇り空の下、風は彼女の長い髪を激しく乱し、足元に散らばっていた無数の破片をバラバラと宙へ巻き上げる。
そして、その風の渦の中で。
彼女の足元に置かれていた大きなトートバッグの隙間から、バササッと激しい音を立てて、とある一枚の紙が飛び出した。
風に煽られ、ひらひらと舞いながら凌の目の前へと落ちてくるその白い紙。
次に、凌の意識はその紙に惹きつけられてしまった。
痛む肘を庇うことすら忘れ、ただただ口を開けて呆然と彼女を見上げる。
目の前にいる少女は、今や完全に理性を失い、狂気と絶望の狭間で激しくのたうち回っているように見えた。
「何も、何も知らないくせに……!」
彼女は口元を押さえていた手を引き剥がし、ひび割れた声で叫び散らした。
その瞳から大粒の涙が溢れ、蒼白な頬を濡らしていく。
「私がどんな想いで絵を描いているのか知らないくせに、偉そうに言うな! 紫もあんたも、みんな揃って才能だの何だの都合のいい言葉で片付けてさあ! そんな、そんな簡単なものじゃない、私のこれは……!」
「待って、落ち着けよ! どうしたんだよ一体!?」
凌は必死に声を張り上げ、宥めようと手を伸ばす。
しかし、今の彼女には凌の声など、自らを脅かす不快な雑音にしか聞こえていないようだった。
「邪魔しないで!!」
彼女は自分の両手で頭を掻きむしるように強く抱え込み、さらに激しく狂ったように叫び続けた。
「私には、これしか無いの……! 画材を持って、こうして空を描くことしか残されていないの! これまで奪われたら、私は私じゃいられなくなる……! そうなったら、私は……私は……っ!」
言葉にならない悲鳴が屋上の虚空に消えていく。
その姿は、何かに激しく追われ、逃げ場を失って追い詰められた野生の獣のようでもあった。
「邪魔しない、邪魔なんて絶対にしねぇから! 俺が悪かった、土足で踏み込むような真似して悪かったよ! だから謝るから、頼むから一度落ち着いてくれ!」
凌は床に膝をついたまま、必死に懇願した。
これ以上彼女を刺激すれば、彼女の精神そのものが粉々に砕け散ってしまうのではないか。そんな本能的な恐怖が凌の背筋を駆け巡る。
だが、彼女は頭を抱えたまま、拒絶の言葉をナイフのように鋭く突き放した。
「私には、時間がないの!!」
その言葉に、凌の身体が凍りつく。
前に語られた『時間がない』という言葉。それは単なる締め切りのようなものではない、もっと残酷で、決定的な、抗えない終わりの気配を孕んでいた。
「あんたに構っていられるほど、私には一分一秒の余裕もないの! もう消えて……! 私の前に現れないで! 私の時間を、これ以上汚さないで……!!」
――ゴォ、と。
まるで彼女の激情に呼応するかのように、一際強い、冷たい突風が屋上を吹き抜けた。
重く垂れ込めた曇り空の下、風は彼女の長い髪を激しく乱し、足元に散らばっていた無数の破片をバラバラと宙へ巻き上げる。
そして、その風の渦の中で。
彼女の足元に置かれていた大きなトートバッグの隙間から、バササッと激しい音を立てて、とある一枚の紙が飛び出した。
風に煽られ、ひらひらと舞いながら凌の目の前へと落ちてくるその白い紙。
次に、凌の意識はその紙に惹きつけられてしまった。