君の手が動く限り、俺は隣にいたいから
「……嘘……だろ……」
掠れた声が、夕暮れの美術室に溶ける。
結果一覧に釘付けになった凌の手は、まだ微かに震えていた。何度見ても『藤代 凌』の四文字は変わらない。
「嘘じゃないよ!」
紫が本当に自分のことのように嬉しそうに弾ける。
「風景画部門の、最優秀賞だよ!」
最優秀賞。その重い言葉に、凌は呆気に取られた。
「俺の絵が……? こんなこと、本当にあるのか……?」
「馬鹿なこと言わないで」
碧南が呆れたように息を吐く。
「現に君の名前がそこに載っているでしょ」
けれど、凌は素直に喜べなかった。
脳裏を過るのは、碧南が描く圧倒的な青空だ。
(碧南先輩ですら、去年は銀賞だったのに。俺の絵が最優秀賞なんて、おかしいだろ)
自分なんかより、彼女の方がずっと上手い。この結果は、病と闘いながら魂を削って描く碧南に対して、残酷で屈辱的なんじゃないか。
胸に湧いた喜びは、一瞬で罪悪感に押し潰されていく。
「素直に喜んだらいいの」
見透かしたような碧南の静かな声に、凌はハッと顔を上げた。
「でも……」
「君の絵を『いい』と思った人がたくさんいた。それが全て。結局、コンテストなんて運次第だしね」
碧南はあっさりと肩を竦める。悔しさも未練も飲み込んだ、潔い声だった。
「つまり」
碧南は柔らかく、けれど真っ直ぐに笑った。
「胸を張っていいってこと。おめでとう、凌」
その笑顔が、逆に凌の胸をチクリと刺した。祝福されているのに、自分が立っている場所が、彼女から奪い取ったもののように思えてしまう。
「凌君?」
黙り込んだ凌を見て、紫が不思議そうに首を傾げる。
「……いや」
嬉しい、けれど怖い。本当に自分がここにいていいのか。
葛藤する凌を見つめながら、碧南は静かに息を吐いた。そして、困ったように小さく笑う。
「……ほんと、面倒くさいね、君」