赫い滴と湿った吐息

第一話:微睡みの残滓と冷めた肌 2

​「……大学なんて、半年前に籍を消した」

少女の乾いた声が、冷房の冷たい風に乗って、男の耳朶を無機質に叩いた。

鼻腔を支配するのは、脱ぎ捨てられた衣服から漂う、街の排気ガスと香水の混濁。

視界に映る彼女の指先は、シーツの端を執拗に弄り、震えを殺そうと硬く強張る。

​「学費も、生活費も……全部、消えたから」

彼女が唇を噛むと、口腔に滲んだ鉄の味が、湿った吐息と共に重く溢れ出す。

耳朶を打つのは、遠くの換気扇が回る低い唸りと、彼女の浅く速い吸気音。

舌先に残るタバコのニコチンが、男の喉を、焦げ付くような渇きで締め上げた。

​「……だから、あそこに立っていたのか」

男の低い声が、静寂の壁に反響し、彼女の剥き出しの背中に冷たい礫を投げつける。

触れ合う二人の間の空気は、先ほどの熱を嘘のように吸い込み、氷のように冷めた。

視覚を奪うほどの液晶画面の光が、少女の頬に、深い孤独の影を青く刻み込む。

​「おじさんには、関係ない。お金、払ったでしょ」

彼女が強気に言い放つと、掌に伝わるシーツの繊維が、指先をチクリと刺激した。

窓の外で、深夜のパトカーが放つ赤い閃光が、壁の木目を不気味に脈動させる。

遠くで、夜の終わりを告げる鴉の濁った声が、新宿の空に高く、鋭く突き刺さった。

​「関係ない、か。そうだな」

男の手が彼女の濡れた髪を掬い上げると、微かなシャンプーの残香が鼻を突く。

指先に伝わる彼女の頭蓋の硬さは、あまりにも小さく、壊れやすく、そして残酷だ。

溢れ出す虚無感の中で、二人の影は再び、共犯者のような深い闇へと溶けていった。
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