赫い滴と湿った吐息
第三章:日常の浸食、偽りの女子大生と孤独な飼い主
第一話:夕暮れのカフェと安物の琥珀 1
「……おじさん、こっちだよ」
夕暮れの駅前、雑踏に紛れた少女の声が、男の鼓膜を湿った指先のように撫でる。
鼻腔を支配するのは、街に充満する排気ガスの熱気と、彼女が新しく纏った安価な香水。
視界に映る彼女は、昨日までの「夜の顔」を脱ぎ捨て、清廉な女子大生の仮面を被っていた。
「……随分と、様になっているじゃないか」
男の低い声が、行き交う人々の喧騒に呑み込まれ、二人の間だけに重く沈殿していく。
耳朶を打つのは、彼女が履いたローファーの硬い踵が、アスファルトを叩く軽快な音。
舌先に残る冷え切ったアイスコーヒーの酸味が、喉の奥を、不快な刺激で締め上げた。
「だって、おじさんがお金くれたでしょ。これ、新しい服なんだよ」
少女がくるりと回ると、揺れるスカートの裾が、男の膝に一瞬だけ微かな風を運ぶ。
触れ合う二人の距離は、白日の下ではあまりにも遠く、そして残酷なまでに近い。
視覚を奪うほどの夕陽の残光が、彼女の横顔を、黄金色の虚像として鮮やかに焼き付けた。
「……場所を変えよう。ここでは、毒が強すぎる」
男の掌が、彼女の細い腰を引き寄せると、薄い布地越しに幼い体温がじわりと伝わる。
掌に伝わる彼女の脊椎のしなりは、服を着ていてもなお、壊れそうな脆さを孕んでいた。
遠くで、街頭ビジョンの無機質な広告音が、偽りの日常を嘲笑うように鳴り響いている。
「ねえ、どこへ行くの? また……あそこ?」
彼女の吐息が男の耳元を掠め、密やかな共犯の匂いを、人混みの中に撒き散らした。
溢れ出す背徳の予感が、スーツ姿の男と学生服に近い少女を、影の底へと引き摺り込む。
駅の雑踏を抜けた先、二人の影は再び、光の届かない路地裏の闇へと溶けていった。
夕暮れの駅前、雑踏に紛れた少女の声が、男の鼓膜を湿った指先のように撫でる。
鼻腔を支配するのは、街に充満する排気ガスの熱気と、彼女が新しく纏った安価な香水。
視界に映る彼女は、昨日までの「夜の顔」を脱ぎ捨て、清廉な女子大生の仮面を被っていた。
「……随分と、様になっているじゃないか」
男の低い声が、行き交う人々の喧騒に呑み込まれ、二人の間だけに重く沈殿していく。
耳朶を打つのは、彼女が履いたローファーの硬い踵が、アスファルトを叩く軽快な音。
舌先に残る冷え切ったアイスコーヒーの酸味が、喉の奥を、不快な刺激で締め上げた。
「だって、おじさんがお金くれたでしょ。これ、新しい服なんだよ」
少女がくるりと回ると、揺れるスカートの裾が、男の膝に一瞬だけ微かな風を運ぶ。
触れ合う二人の距離は、白日の下ではあまりにも遠く、そして残酷なまでに近い。
視覚を奪うほどの夕陽の残光が、彼女の横顔を、黄金色の虚像として鮮やかに焼き付けた。
「……場所を変えよう。ここでは、毒が強すぎる」
男の掌が、彼女の細い腰を引き寄せると、薄い布地越しに幼い体温がじわりと伝わる。
掌に伝わる彼女の脊椎のしなりは、服を着ていてもなお、壊れそうな脆さを孕んでいた。
遠くで、街頭ビジョンの無機質な広告音が、偽りの日常を嘲笑うように鳴り響いている。
「ねえ、どこへ行くの? また……あそこ?」
彼女の吐息が男の耳元を掠め、密やかな共犯の匂いを、人混みの中に撒き散らした。
溢れ出す背徳の予感が、スーツ姿の男と学生服に近い少女を、影の底へと引き摺り込む。
駅の雑踏を抜けた先、二人の影は再び、光の届かない路地裏の闇へと溶けていった。