赫い滴と湿った吐息

第二話:雨の後の沈黙、縋り付く指先 4

触れ合う二人の肌の間で、立ち上る白濁した湯気が、互いの視界を遮る共犯のヴェールを作り上げた。

視覚を奪うほどの眩い水飛沫が、彼女の剥き出しの肌に、紅い支配の痕跡を刻み付けていく。

​「嫌か? ぬるま湯のような過去に、まだ未練があるのか」

男の掌が、石鹸の泡で滑る彼女の首筋を掴み、そのまま強引に、かつ愛おしむように深く圧迫する。

掌に伝わる彼女の喉の震えは、窒息寸前の小鳥のように、激しく、そして無様に乱れていた。

遠くで、換気扇が回る無機質な重低音が、この密室の罪深さを、絶え間なく祝福するように響く。

​「ちがう、もっと……もっと、強く……っ! 全部、塗り替えて……おじさん、お願い……っ!」

彼女の吐息が、湿った熱気を帯びて男の指先に絡みつき、完全な「服従」という名の麻薬を注ぐ。

溢れ出す背徳の快楽が、タイルの上で二人の影を一つに溶かし、過去の亡霊を水底へと沈めていく。

叩きつけるような水音だけが、深夜の浴室で、新しい地獄の契約を、高らかに宣言し続けていた。
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