赫い滴と湿った吐息

第二話:凱旋と供犠、彼女を縛る新しい枷 2

​「……本当なんだね。もう、あの動画、どこにもないんだね……っ」

安堵のあまり、少女の膝がベッドの端で崩れ、男の腰にしがみつくようにして、ずるずると沈み込んでいく。

鼻腔を支配するのは、雨に濡れた男の体温から立ち上る、重厚な革と煙草の混じった、暴力的なまでの安心の匂い。

視界に映る彼女の目尻は、救済の代償として差し出した自身の未来を、一瞬だけ惜しむように赤く、淫らに腫れていた。

​「……信じろと言ったはずだ。お前の世界を壊せるのは、この世で私一人だけだとな」

男の低い声が、静まり返った寝室の空気を震わせ、彼女の剥き出しの項を、冷たい刃のようになぞり下りる。

耳朶を打つのは、男が脱ぎ捨てた濡れた上着が床に落ち、ドサリと重く、逃げ場のない境界を引く響き。

舌先に残る自身の征服欲という名の甘い麻薬が、男の口腔を、救い出した獲物を咀嚼する前の、静かな熱で満たした。

​「あ、っ……おじさん、っ……指、つめたい、っ……んんぅ……っ!」

男の指が、彼女の薄いブラウスの隙間から滑り込み、冷え切った皮膚を、じりじりと、ねちっこく這い回る。

触れ合う二人の肌の間で、溶け出した安堵の汗が、互いの罪悪感をドロドロに溶かし、強固な一つの塊に変えていく。

視覚を奪うほどのベッドサイドの灯りが、彼女の反り返った首筋を、生贄の喉元のように、美しく、残酷に暴き出した。

​「お前のナカに残った、あの若造の残り香を、今ここで、一滴残らず絞り出してやろう」

男の手が、彼女の細い手首を頭上で固定し、逃げ場を完全に奪うと、指先に伝わるのは、恐怖を凌駕した期待の拍動。

掌に伝わる彼女の手首の骨の細さは、男が少し力を込めるだけで、容易く砕けてしまいそうなほどに、あまりに無防備だ。

遠くで、深夜の静寂を切り裂く緊急車両のサイレンが、二人の犯した「救済という名の犯罪」を、遠くから嘲笑う。

​「いいよ……もっと、汚して……おじさんの印、いっぱい、つけて……っ!」

彼女の喉から漏れた、完全な「服従」を誓う掠れ声が、男の耳腔に、甘い毒液となってねっとりと注ぎ込まれた。

溢れ出す加虐の愉悦が、男の指を彼女の最も柔らかな場所へと誘い、蹂躙という名の、新しい枷を嵌めていく。

シーツが擦れる湿った音が、深夜の密室で、二人の共依存を、より深く、より逃れられぬ闇へと、引き摺り込んでいった。
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