赫い滴と湿った吐息

第二話:凱旋と供犠、彼女を縛る新しい枷 3

​「……っ、あ、あぁぁ! おじ、さん……っ、もう、私、あいつのこと、思い出せない……っ!」

少女の喉から絞り出された、絶頂と虚脱が混濁した悲鳴が、ホテルの密室に閉じ込められ、湿った熱を帯びて反響する。

鼻腔を支配するのは、加熱された皮膚から立ち上る濃厚な雌の匂いと、男の独占欲を体現したような、咽せ返るほど雄々しい体臭。

視界に映る彼女の肢体は、激しい蹂躙の痕跡を刻まれ、シーツの海で溺れる小舟のように、ただ力なく、無様に波打っていた。

​「……忘れるがいい。お前の過去も、あの若造の感触も。残るのは、私のこの手による疼きだけだ」

男の低い声が、疲弊した彼女の耳腔に潜り込み、支配という名の冷徹な楔を、脳髄の奥底まで深く打ち込む。

耳朶を打つのは、絡み合った二人の肌が離れる際に鳴る、粘りつくような嫌らしく、かつ甘美な水音。

舌先に残る自身の勝利という名の鉄錆の味が、男の口腔を、救済という名の略奪を完遂した後の、重厚な充足感で満たした。

​「……ねえ、おじさん。私、もう、おじさんなしじゃ……生きていけないよ……っ」

少女の指先が、男の腕に縋り付くように這い上がり、その重みに自身の全てを預けるように、ねちっこく絡みつく。

触れ合う二人の肌の間で、冷めゆく汗が接着剤となり、逃げ場のない共依存の牢獄を、より強固に、より美しく完成させた。

視覚を奪うほどの薄暗い常夜灯の下で、彼女の瞳は、自ら選んだ地獄の主を、信者のような狂気で、ただ真っ直ぐに見つめる。

​「生きる必要などない。私の腕の中で、ただ呼吸をしていればいい。……お前は、私の最高傑作だ」

男の手が、彼女の乱れた髪を慈しむように、しかし逃走を許さぬ強さで、ゆっくりと、執拗に撫で下ろす。

掌に伝わる彼女の微かな寝息と、安堵に満ちた鼓動は、もはやこの「飼い主」という名の闇なしでは、刻むことさえできない。

遠くで、夜明けを告げる始発列車の遠雷が、日常への帰還を促すが、この部屋の時間は、永遠の沈黙の中へと閉じ込められた。

​「おじ、さん……ずっと、こうしてて……私を、離さないで……っ」

彼女の吐息が、深い眠りの淵へと落ちていき、それに呼応するように、男の支配欲もまた、暗い満足感と共に静まり返る。

溢れ出した背徳の余韻が、窓の外の現実を塗り潰し、二人の関係は、救済という名の最も重い枷によって、断絶された。

静寂を切り裂くのは、もはや外部の着信音ではなく、二人の重なる鼓動という名の、逃れられぬ刑罰の音だけだった。
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