赫い滴と湿った吐息
第三話:静寂の代償、忍び寄る次の影 1
「……おじさん、見て。外、もう明るいよ」
カーテンの隙間から差し込む黎明の光が、乱れたシーツの上で横たわる少女の、死人のように白い肌を無慈悲に暴く。
鼻腔を支配するのは、一晩中閉じ込められていた情事の残り香と、冷え切った汗が放つ、金属的な酸っぱい匂い。
視界に映る彼女の瞳は、過去の男を排除した安堵のあまり、焦点が合わないまま、虚空を泳ぐ深海魚のように濁っていた。
「……光など見るな。お前の朝は、私のこの腕の中にしかない」
男の低い声が、静まり返った寝室の冷気を震わせ、彼女の耳腔に、逃げ場のない「日常」という名の重圧を注ぎ込む。
耳朶を打つのは、彼女が男の胸板に顔を埋めた際に鳴る、乾いた布の擦れる音と、弱々しい吸気音。
舌先に残る自身の支配欲という名の鉄錆の味が、男の口腔を、救い出した獲物を飼い慣らすための、冷徹な渇きで満たした。
「うん……私、もう外に出たくない。ずっと、ここで……おじさんの、お人形、でいたい……っ」
少女の指先が、男の腕に刻まれた血管を、慈しむように、そして縋り付くように、ねちっこくなぞり回す。
触れ合う二人の肌の間で、冷めきった体温が混ざり合い、救済と引き換えに自由を捨てた、歪な誓約の膜を作り上げた。
視覚を奪うほどの眩い朝日が、窓を叩くたび、彼女の華奢な肩は、外界の存在を拒絶するように小刻みに震える。
「……なら、一生ここにいろ。お前の戸籍も、名前も、私が消してやってもいい」
男の手が、彼女の喉元を、宝石の硬さを確かめるような手つきで、ゆっくりと、執拗に、深く圧迫する。
掌に伝わる彼女の喉の震えは、絶対的な孤独から救い出された、盲目的な狂信者の拍動へと変質していた。
遠くで、清掃車の無機質な作業音が、夜の罪を回収するように響き、二人の断絶された時間を嘲笑う。
「おじ、さん……っ。私、本当は……あいつに、殺されちゃうと思ってた……っ」
彼女の喉から漏れた、今更な恐怖の吐息が、男の指先に熱く、そして卑屈な湿り気を伴って絡みついた。
溢れ出した共依存の余韻が、ホテルの密室を、救済という名の墓標へと変え、二人の影を一つの闇に溶かす。
静寂を切り裂くのは、もはや過去の着信音ではなく、男の支配という名の、重く、逃れられぬ心臓の音だけだった。
カーテンの隙間から差し込む黎明の光が、乱れたシーツの上で横たわる少女の、死人のように白い肌を無慈悲に暴く。
鼻腔を支配するのは、一晩中閉じ込められていた情事の残り香と、冷え切った汗が放つ、金属的な酸っぱい匂い。
視界に映る彼女の瞳は、過去の男を排除した安堵のあまり、焦点が合わないまま、虚空を泳ぐ深海魚のように濁っていた。
「……光など見るな。お前の朝は、私のこの腕の中にしかない」
男の低い声が、静まり返った寝室の冷気を震わせ、彼女の耳腔に、逃げ場のない「日常」という名の重圧を注ぎ込む。
耳朶を打つのは、彼女が男の胸板に顔を埋めた際に鳴る、乾いた布の擦れる音と、弱々しい吸気音。
舌先に残る自身の支配欲という名の鉄錆の味が、男の口腔を、救い出した獲物を飼い慣らすための、冷徹な渇きで満たした。
「うん……私、もう外に出たくない。ずっと、ここで……おじさんの、お人形、でいたい……っ」
少女の指先が、男の腕に刻まれた血管を、慈しむように、そして縋り付くように、ねちっこくなぞり回す。
触れ合う二人の肌の間で、冷めきった体温が混ざり合い、救済と引き換えに自由を捨てた、歪な誓約の膜を作り上げた。
視覚を奪うほどの眩い朝日が、窓を叩くたび、彼女の華奢な肩は、外界の存在を拒絶するように小刻みに震える。
「……なら、一生ここにいろ。お前の戸籍も、名前も、私が消してやってもいい」
男の手が、彼女の喉元を、宝石の硬さを確かめるような手つきで、ゆっくりと、執拗に、深く圧迫する。
掌に伝わる彼女の喉の震えは、絶対的な孤独から救い出された、盲目的な狂信者の拍動へと変質していた。
遠くで、清掃車の無機質な作業音が、夜の罪を回収するように響き、二人の断絶された時間を嘲笑う。
「おじ、さん……っ。私、本当は……あいつに、殺されちゃうと思ってた……っ」
彼女の喉から漏れた、今更な恐怖の吐息が、男の指先に熱く、そして卑屈な湿り気を伴って絡みついた。
溢れ出した共依存の余韻が、ホテルの密室を、救済という名の墓標へと変え、二人の影を一つの闇に溶かす。
静寂を切り裂くのは、もはや過去の着信音ではなく、男の支配という名の、重く、逃れられぬ心臓の音だけだった。