赫い滴と湿った吐息
第三話:飼育の日常、感覚の鈍化 2
「……これをお前にやろう。お前が私を待つ間、寂しくないようにな」
男の低い声が、静まり返った寝室に不吉な重奏を響かせ、ベッドの上に置かれた銀色の「飼育具」を冷徹に指し示す。
鼻腔を支配するのは、新調されたばかりの冷たい金属の匂いと、男が手土産に買ってきた、甘ったるい香水の咽せ返るような芳香。
視界に映る少女は、その異質な道具を前に、家畜が屠殺場の道具を眺めるような、空虚で、それでいて期待に満ちた瞳を向けていた。
「……おじさん、それ、何? 私の、新しい、おもちゃ……っ?」
少女の喉から漏れた、個性を失った人形のような問いかけが、湿った熱を帯びて、男の指先にねちっこく絡みつく。
耳朶を打つのは、男がその重い金属製の拘束具を手に取り、ネジを回す際に生じる、ギリギリという神経を逆撫でする摩擦音。
舌先に残る自身の支配という名の鉄錆の味が、男の口腔を、一人の人間を完全に「機能」へと作り変える前の、静かな悦楽で満たした。
「……お前の『自由』を、物理的に奪うための楔だ。これで、私なしでは寝返り一つ打てなくなる」
男の手が、彼女の細い足首を強引に掴み上げると、指先に伝わるのは、冷たい金属の感触を待ちわびるような、卑屈な筋肉の脈動。
触れ合う二人の肌の間で、銀色の輪が彼女の皮膚を執拗に締め上げ、男の所有物としての重量を、逃げ場のない現実として刻み込んでいく。
視覚を奪うほどの眩いスタンドの光が、彼女の肌に食い込む金属の光沢を、標本にされた剥製のように、美しく、残酷に暴き出した。
「あ、っ……おじ、さん……おもい、っ……でも、うれしい……私、もう、動けないんだね……っ」
彼女の指先が、自分の足首に嵌められた重い枷を、まるで愛おしい宝物に触れるように、ねちっこく、何度もなぞり回す。
掌に伝わる彼女の骨の細さは、その重圧に耐えかねて今にも砕けそうでありながら、男の支配という支えを失うことを何よりも恐れていた。
遠くで、扉の向こう側のエレベーターの音が、異世界の雑音として遠ざかり、この密室の時間が、二人だけの「断絶された楽園」として固まっていく。
「そうだ。その重みが私の愛だと思え。……さあ、その脚で、私の腕の中まで這ってこい」
男の指先が、彼女の唇を割り、言葉を奪う代わりに、絶対的な隷属という名の蜜を、脳髄まで深く、ねっとりと注ぎ込んだ。
溢れ出した「廃人」の快楽が、ホテルの部屋を、名もなき鳥が自ら翼を捥ぐための、甘美で無慈悲な断頭台へと変える。
日常が完全に死に絶えたその暗闇で、彼女の細い吐息は、男の支配という名の永劫の沈黙へと、ただ静かに、そして無残に沈んでいった。
男の低い声が、静まり返った寝室に不吉な重奏を響かせ、ベッドの上に置かれた銀色の「飼育具」を冷徹に指し示す。
鼻腔を支配するのは、新調されたばかりの冷たい金属の匂いと、男が手土産に買ってきた、甘ったるい香水の咽せ返るような芳香。
視界に映る少女は、その異質な道具を前に、家畜が屠殺場の道具を眺めるような、空虚で、それでいて期待に満ちた瞳を向けていた。
「……おじさん、それ、何? 私の、新しい、おもちゃ……っ?」
少女の喉から漏れた、個性を失った人形のような問いかけが、湿った熱を帯びて、男の指先にねちっこく絡みつく。
耳朶を打つのは、男がその重い金属製の拘束具を手に取り、ネジを回す際に生じる、ギリギリという神経を逆撫でする摩擦音。
舌先に残る自身の支配という名の鉄錆の味が、男の口腔を、一人の人間を完全に「機能」へと作り変える前の、静かな悦楽で満たした。
「……お前の『自由』を、物理的に奪うための楔だ。これで、私なしでは寝返り一つ打てなくなる」
男の手が、彼女の細い足首を強引に掴み上げると、指先に伝わるのは、冷たい金属の感触を待ちわびるような、卑屈な筋肉の脈動。
触れ合う二人の肌の間で、銀色の輪が彼女の皮膚を執拗に締め上げ、男の所有物としての重量を、逃げ場のない現実として刻み込んでいく。
視覚を奪うほどの眩いスタンドの光が、彼女の肌に食い込む金属の光沢を、標本にされた剥製のように、美しく、残酷に暴き出した。
「あ、っ……おじ、さん……おもい、っ……でも、うれしい……私、もう、動けないんだね……っ」
彼女の指先が、自分の足首に嵌められた重い枷を、まるで愛おしい宝物に触れるように、ねちっこく、何度もなぞり回す。
掌に伝わる彼女の骨の細さは、その重圧に耐えかねて今にも砕けそうでありながら、男の支配という支えを失うことを何よりも恐れていた。
遠くで、扉の向こう側のエレベーターの音が、異世界の雑音として遠ざかり、この密室の時間が、二人だけの「断絶された楽園」として固まっていく。
「そうだ。その重みが私の愛だと思え。……さあ、その脚で、私の腕の中まで這ってこい」
男の指先が、彼女の唇を割り、言葉を奪う代わりに、絶対的な隷属という名の蜜を、脳髄まで深く、ねっとりと注ぎ込んだ。
溢れ出した「廃人」の快楽が、ホテルの部屋を、名もなき鳥が自ら翼を捥ぐための、甘美で無慈悲な断頭台へと変える。
日常が完全に死に絶えたその暗闇で、彼女の細い吐息は、男の支配という名の永劫の沈黙へと、ただ静かに、そして無残に沈んでいった。