赫い滴と湿った吐息

第三話:共犯の終焉、あるいは神の沈黙 2

「おじ、さん……。私、を……壊して……。外の世界が、私を忘れちゃうくらい……ボロボロに、して……っ」

少女の喉から絞り出された、個性を完全に放棄した掠れ声が、湿った熱を帯びて、男の腕にねちっこく、呪いのように絡みつく。

​鼻腔を支配するのは、外界の喧騒が届かない密室に沈殿した、微かな防虫剤と、長年放置された標本の森を思わせる乾いた死の匂い。

耳朶を打つのは、男が彼女の髪を指で梳く際の、カサカサとした枯れ葉のような、魂の抜けた肉体の無機質な音。

視界に映る彼女の貌は、かつて慈しんでいた夢や希望をすべて剥ぎ取られ、ただ主人の欲望を映し出すためだけに磨き上げられた、純白の陶器のようであった。

​「……名前など、もう必要ない。お前はただの『これ』だ。私の部屋を飾り、私の飢えを満たすためだけの、美しい器だ」

男の低い声が、彼女の脳を麻痺させる毒液となって、耳腔から脊髄へと、ゆっくりと、執拗に、かつ冷徹に浸透していく。

舌先に残る自身の「個」という名の鉄錆の味が、男の口腔を、一人の人間を完全に「完成された静物」へと変貌させた後の、底知れぬ悦楽で満たしていた。

​触れ合う二人の肌の間で、立ち上る絶望の静寂が、彼女の身体を男の意志一つで動く自動人形へと変質させていく。

掌に伝わる彼女の胸の鼓動は、もはや生命を維持するための本能的なものではなく、男の指先から供給される「支配」という名のゼンマイによって刻まれる、規則正しくも虚ろな拍動。


​「あ、っ……おじ、さん……。私、もう……中身、何にも……ないの……。おじさんの、好きな……空気で、満たして……っ」

彼女の指先が、男の手に力なく触れ、自らの虚無を差し出すように、ねちっこく、執拗に、かつ卑屈に縋り付く。

視覚を奪うほどの眩いスポットライトが、彼女の焦点の合わない瞳を射抜き、そこにはもはや、鏡の中の自分を認識する機能さえ残されていない。

​男の手が、彼女の顎を固定し、その空っぽの器に「無」という名の最後の一滴を注ぎ込むと、彼女の精神の最後の継ぎ目が、音もなく崩れ去った。

溢れ出した「埋葬」の愉悦が、地下室を、名もなき人形が奉仕を捧げるための、甘美で無慈悲な祭壇へと変えていく。
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