赫い滴と湿った吐息

第三話:ベッドでの対峙、侵食される聖域 1

​「……冷房、ききすぎかな」

濡れた髪を拭きもせず、少女の細い肩が冷えた空気の中で小さく震える。

鼻腔を支配するのは、消毒されたシーツの糊の匂いと、男の肺から漏れる煙草の残香。

視界に映る彼女の素肌は、浴室の熱を奪われ、陶器のような青白い静謐を纏った。 

​「すぐに、熱くなるだろう」

男の低い声が、静まり返った寝室の壁に当たり、不気味な残響を耳元に残す。

耳朶を打つのは、少女がベッドに腰を下ろした際に鳴った、スプリングの重い軋み。

舌先に残る湿った蒸気の余韻が、男の唾液を粘つかせ、喉の奥を熱く締め上げる。

​「……おじさん、こっち来てよ」

少女がシーツを掴む指先に力が入り、白い布地に無数の醜い皺を刻み込んだ。

触れ合う視線の中心で、男の影が彼女の細い肢体を、巨大な黒い膜となって覆う。

視覚を奪うほどの純白の枕の上に、彼女の濡れた黒髪が、死んだ海草のように広がった。

​「……準備は、できているんだろう?」

男の手が彼女の膝を割り、冷えた太腿の内側にある、最も柔らかい熱に触れる。

掌に伝わる彼女の肌の質感は、先ほどの水気を含み、吸い付くような重い粘りがある。

遠くで、隣の部屋から漏れ聞こえる無機質なテレビの音が、世界の断絶を告げていた。

​「……うん。壊しても、いいよ」

彼女の吐息が男の首筋を撫で、微かな粘膜が剥がれる、ちりとした音を立てる。

窓を閉ざした遮光カーテンの隙間から、夜の街の不夜城の毒が、一筋の紅を落とした。

溢れ出す獣の衝動が、男の理性を指先から剥ぎ取り、彼女の深淵へと、深く突き刺さる。
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