刻(とき)の断罪 ―真紅の絆―

月永グループの顧問弁護士、一柳奏は、自らの内に芽生えた奇妙な感情に戸惑っていた。
(…なぜ私は、男性であるはずの彼に、これほどまでに惹かれるのか)
翔の横顔を見つめるたび、胸を締め付けるような切なさが襲う。ある日、過密な復讐計画の疲れが表情に出ている翔を見かけ、奏は思わず声をかけた。
「…月永副社長、少し休まれては。顔色が良くありません」
「余計なお世話だ。仕事に戻れ」
冷たくあしらわれたが、奏にはその頑なな態度が、今にも壊れそうな悲鳴を上げているように見えた。ふらりと足元を揺らした翔を、奏は反射的に抱き止める。その腕の中に収まった体の、驚くほどの細さと柔らかさ。
(…まさか、女性…?)
直感的に走った疑念を胸に、奏は去りゆく翔の背中をいつまでも追っていた。

一方、翔は京太郎を尾行していたが、タクシーに乗り込まれ一瞬の隙で見失ってしまう。苛立ちを募らせたその時、歩道橋の階段から一人の高校生が転落した。誰かに突き飛ばされたのか、周囲は騒然としている。
翔は倒れた少年を抱え上げ、救急車に同封した。病院に到着した少年――俊太は出血がひどく、即座に輸血が必要となった。


「…RHマイナスのAB型? 在庫がないだと?」
医師の焦燥に、翔は無言で腕を差し出した。
「私と同じだ。使え」

無事に一命を取り留めた俊太。そこへ、母である美晴が駆け込んできた。
「俊太!…あ、あなたが助けてくださったのですね」
翔は、図らずも仇敵である京太郎の息子を助けてしまったことに、微かな後悔を感じていた。しかし、美晴は翔の顔をじっと見つめ、離そうとしない。
「…どこかでお会いしたことはありませんか?」
「あるわけがない。人違いだ」
冷淡に否定する翔だったが、美晴の目には、かつての恋人・淳也の面影が翔の輪郭と重なって見えていた。

退院後、俊太は不思議なことを口にするようになった。
「母さん、輸血してもらってから、変な夢を見るんだ。優しい男の人が、僕を励ましてくれる夢……」
俊太がスケッチブックに描き留めたその「男の人」の似顔絵を見て、美晴は絶句した。そこに描かれていたのは、まぎれもなく十五年前の淳也だった。
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