刻(とき)の断罪 ―真紅の絆―
翔は言葉を失った。この男は、名前も知らないはずの自分に、何を言っているのか。断れば不審に思われ、計画が根底から崩れるかもしれない。焦りと混乱の中で、翔は自暴自棄な賭けに出た。
「…本気で抱いてくれたら、結婚してあげるわ」
拒絶されると思っていたその言葉を、奏は静かに受け入れた。
「…分かった。覚悟はできている」

驚く翔の唇に、奏の優しく切ないキスが落ちた。その熱は翔の心の奥底まで浸透し、復讐のために凍りつかせていた全身の力が、嘘のように抜けていく。

深紅のドレスが肩から滑り落ち、月光に照らされた白く滑らかな肌が露わになる。奏はその姿に、狂おしいほどの愛しさを抱き、名も知らぬ女性――目の前の「彼女」のすべてを包み込むように抱きしめた。

(だましている…こんなこと、許されるはずがないのに……)
罪悪感が胸を突くが、奏の手の温もりがあまりに心地よく、翔は抗うことができなかった。復讐という名の修羅道を歩んできた孤独な魂が、初めて他者の体温に溶けていく。




二人は言葉を交わすことなく、ただ一度きりの一線を越えた。
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