刻(とき)の断罪 ―真紅の絆―
パイプオルガンの重厚な音色が聖堂の隅々にまで染み渡り、淳也と美晴は祭壇へと続くバージンロードをゆっくりと進んだ。
参列者席の最前列には、学生時代からの親友、美浜大慈と田之上京太郎が並んで座っている。大慈はどこか落ち着かない様子で何度もネクタイを弄り、京太郎は彫像のように無機質な表情で、ただ真っ直ぐに淳也の背中を見つめていた。
「神聖なる神の前で、健やかなるときも、病めるときも……」
神父の厳かな誓いの言葉が響く。淳也が希望に満ちた声で「誓います」と口を開こうとした、その瞬間だった。
ドォン! と、大聖堂の重厚な扉が暴力的な音を立てて弾け飛んだ。
「動くな! 全員、その場を動くな!」
祝祭の静寂を切り裂いたのは、怒号と共に雪崩れ込んできた、十数名の武装した捜査官たちだった。参列者たちの悲鳴が響き渡り、聖堂内の空気は一瞬にして極寒のそれへと変貌する。
「城里淳也。テロ組織への不正送金、および外為法違反の容疑で逮捕状が出ている。同行願う」
「な……何のことだ! 不正送金!? 何かの間違いだ、私は何も知らない!」
淳也の必死の抗議は聞き入れられず、捜査官たちは彼の腕を強引に背後へねじ上げた。
ガチリ、という冷たい金属音が聖堂に空虚に響く。純白のタキシードの袖口が、銀色の手錠によって無残に汚されていった。
「淳也さん! 淳也さん、何かの間違いです! 離して!」
美晴がドレスの裾を振り乱して駆け寄ろうとしたが、無機質な捜査官の壁に阻まれる。
「美晴、大丈夫だ! すぐに戻る! きっと何かの手違いなんだ、信じてくれ!」
引きずられるように連行される間際、淳也は救いを求めるように親友たちの姿を追った。
だが、そこで彼が目にしたものは、十五年の絆を無慈悲に粉砕する光景だった。
美浜大慈は、口元に卑劣な笑みを浮かべ、満足げに鼻で笑っている。
田之上京太郎は、冷徹な瞳で、路傍のゴミを見るような視線を淳也へ投げつけていた。
その瞬間、淳也の脳裏を、数日前に京太郎から手渡された一通の「アラビア語の書類」が過った。
『これにサインすれば、我が社は世界へ羽ばたける。信じてくれ、淳也』
そう言って笑った京太郎の顔が、今は地獄の業火に焼かれた悪魔の貌(かたち)に見えた。
「……お前ら……はめたのか……っ!」
淳也の絶叫は、パトカーのけたたましいサイレンにかき消された。
車窓から見えた六月の空は、あまりにも青く、そして手の届かないほど遠かった。
参列者席の最前列には、学生時代からの親友、美浜大慈と田之上京太郎が並んで座っている。大慈はどこか落ち着かない様子で何度もネクタイを弄り、京太郎は彫像のように無機質な表情で、ただ真っ直ぐに淳也の背中を見つめていた。
「神聖なる神の前で、健やかなるときも、病めるときも……」
神父の厳かな誓いの言葉が響く。淳也が希望に満ちた声で「誓います」と口を開こうとした、その瞬間だった。
ドォン! と、大聖堂の重厚な扉が暴力的な音を立てて弾け飛んだ。
「動くな! 全員、その場を動くな!」
祝祭の静寂を切り裂いたのは、怒号と共に雪崩れ込んできた、十数名の武装した捜査官たちだった。参列者たちの悲鳴が響き渡り、聖堂内の空気は一瞬にして極寒のそれへと変貌する。
「城里淳也。テロ組織への不正送金、および外為法違反の容疑で逮捕状が出ている。同行願う」
「な……何のことだ! 不正送金!? 何かの間違いだ、私は何も知らない!」
淳也の必死の抗議は聞き入れられず、捜査官たちは彼の腕を強引に背後へねじ上げた。
ガチリ、という冷たい金属音が聖堂に空虚に響く。純白のタキシードの袖口が、銀色の手錠によって無残に汚されていった。
「淳也さん! 淳也さん、何かの間違いです! 離して!」
美晴がドレスの裾を振り乱して駆け寄ろうとしたが、無機質な捜査官の壁に阻まれる。
「美晴、大丈夫だ! すぐに戻る! きっと何かの手違いなんだ、信じてくれ!」
引きずられるように連行される間際、淳也は救いを求めるように親友たちの姿を追った。
だが、そこで彼が目にしたものは、十五年の絆を無慈悲に粉砕する光景だった。
美浜大慈は、口元に卑劣な笑みを浮かべ、満足げに鼻で笑っている。
田之上京太郎は、冷徹な瞳で、路傍のゴミを見るような視線を淳也へ投げつけていた。
その瞬間、淳也の脳裏を、数日前に京太郎から手渡された一通の「アラビア語の書類」が過った。
『これにサインすれば、我が社は世界へ羽ばたける。信じてくれ、淳也』
そう言って笑った京太郎の顔が、今は地獄の業火に焼かれた悪魔の貌(かたち)に見えた。
「……お前ら……はめたのか……っ!」
淳也の絶叫は、パトカーのけたたましいサイレンにかき消された。
車窓から見えた六月の空は、あまりにも青く、そして手の届かないほど遠かった。