刻(とき)の断罪 ―真紅の絆―

午後から。

翔はいつもなら険しい顔つきで仕事をしているが、なぜか自然と穏やかな表情になっていた。

会議室から出てきた翔に会った女子社員が、声をかけてきた。

「副社長、なんだか今日はいつもと違いますね」
「え?」
「とっても穏やかな表情をしていています。いつも、思い詰めていらっしゃるご様子で、心配していました」
「あ…えっと‥そんなことは…」
「あまり、一人で抱え込まないでくださいね。大変な立場でいらっしゃることは、理解しています。でも、話を聞くことくらいは私でもできますから」
「…すみません…ご心配をおかけして…」
「いいえ、副社長って。とっても優しいのですね。話していると、安心します」

そんなことを言われたのは初めてかもしれない。

施設にいた頃は、みんな孤独で笑うことも少なかった。
月永家に引き取られても、復讐だけを考えていたことで、いつもピリピリしていた。
今日みたいに街に出かけて、アイスを食べる事なんか考えたことがない。

「…笑っても…いいのかな?」

窓ガラスに映る自分の顔を見た翔は小さく呟いた。

それから、翔は少しだけ笑うようになった。

時々、帰り道に奏と寄ったアイスクリーム屋さんを見ていたり、ショッピングモールに行って女性ものの服を眺めてみたり。

今まで女性への気持ちに蓋をしていた翔だが、その気持ちが変化しつつあった。


そんな時だった。

「あの…」

翔が仕事の外出から帰る途中、不意に声をかけられた。
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