刻(とき)の断罪 ―真紅の絆―
2
15年後の六月、空はあの日と同じように残酷なほど高く青かった。
海沿いの断崖にひっそりと佇む墓地。潮風に洗われ、文字の掠れた「城里家」の墓石の前に、一人の美しい女性が立っていた。
彼女は、指先に残る熱を慈しむように、真っ白なバラを一輪供えた。
「…お兄ちゃん。この十五年、一瞬たりとも忘れたことはないわ」
その瞳には、かつての無垢な少女の面影はない。
宿っているのは、暗い海底のように底知れない憎悪と、自分さえも焼き尽くさんとする復讐の炎。

「必ず、あなたの無念を晴らします…。あの男たちに、生きたまま地獄を見せてやる」
風が彼女の長い髪を乱す。彼女は一度も振り返ることなく、その場を去った。
その背中には、もう後戻りできない決意が張り付いていた。
都心の喧騒を見下ろす、月永グループ本社ビル最上階。
冷房の効いた副社長室の重厚な扉を、顧問弁護士の一柳奏はいつものようにノックした。
「失礼いたします、副社長」
デスクの向こう、西日の逆光を背負って立っていたのは翔だった。完璧な三つ揃いのスーツは、彼女の華奢な体の線を巧みに隠している。資料を受け取ろうと翔が手を伸ばしたその瞬間、二人の指先が不意に、吸い付くように触れ合った。
「あ…」
翔が小さく息を呑む。一柳の指先に、翔の驚くほど細く、そして繊細な指の感触が伝わった。男にしてはあまりに滑らかで温かなその肌の質感に、一柳の心臓が警鐘を鳴らすように跳ね上がった。
「…失礼。手が滑りました」
翔はすぐに視線を逸らしたが、一柳は見てしまった。一瞬だけ、翔の長い睫毛が震え、その漆黒の瞳に底知れぬ孤独が宿ったのを。
(…なぜだ。なぜ、これほどまでに胸が締め付けられる…)
一柳は、自分の内に芽生えた禁断の疼きに激しく戸惑っていた。法曹界の鉄仮面として、常に理性を優先してきたはずの彼が、目の前の「青年」と目と目が合うたび、吸い込まれそうな瞳を見つめるたび、理性が砂の城のように崩れていく。
(…正気か、私は。男である彼を…私は、抱きしめたいと願っているのか?)
自責の念に駆られながらも、一柳の視線は無意識に翔の白い首筋を追ってしまう。
彼を愛で守りたい、その闇をすべて自分が引き受けたい。
その執着にも似た情愛が、一柳の心をじりじりと焼き始めていた。
海沿いの断崖にひっそりと佇む墓地。潮風に洗われ、文字の掠れた「城里家」の墓石の前に、一人の美しい女性が立っていた。
彼女は、指先に残る熱を慈しむように、真っ白なバラを一輪供えた。
「…お兄ちゃん。この十五年、一瞬たりとも忘れたことはないわ」
その瞳には、かつての無垢な少女の面影はない。
宿っているのは、暗い海底のように底知れない憎悪と、自分さえも焼き尽くさんとする復讐の炎。

「必ず、あなたの無念を晴らします…。あの男たちに、生きたまま地獄を見せてやる」
風が彼女の長い髪を乱す。彼女は一度も振り返ることなく、その場を去った。
その背中には、もう後戻りできない決意が張り付いていた。
都心の喧騒を見下ろす、月永グループ本社ビル最上階。
冷房の効いた副社長室の重厚な扉を、顧問弁護士の一柳奏はいつものようにノックした。
「失礼いたします、副社長」
デスクの向こう、西日の逆光を背負って立っていたのは翔だった。完璧な三つ揃いのスーツは、彼女の華奢な体の線を巧みに隠している。資料を受け取ろうと翔が手を伸ばしたその瞬間、二人の指先が不意に、吸い付くように触れ合った。
「あ…」
翔が小さく息を呑む。一柳の指先に、翔の驚くほど細く、そして繊細な指の感触が伝わった。男にしてはあまりに滑らかで温かなその肌の質感に、一柳の心臓が警鐘を鳴らすように跳ね上がった。
「…失礼。手が滑りました」
翔はすぐに視線を逸らしたが、一柳は見てしまった。一瞬だけ、翔の長い睫毛が震え、その漆黒の瞳に底知れぬ孤独が宿ったのを。
(…なぜだ。なぜ、これほどまでに胸が締め付けられる…)
一柳は、自分の内に芽生えた禁断の疼きに激しく戸惑っていた。法曹界の鉄仮面として、常に理性を優先してきたはずの彼が、目の前の「青年」と目と目が合うたび、吸い込まれそうな瞳を見つめるたび、理性が砂の城のように崩れていく。
(…正気か、私は。男である彼を…私は、抱きしめたいと願っているのか?)
自責の念に駆られながらも、一柳の視線は無意識に翔の白い首筋を追ってしまう。
彼を愛で守りたい、その闇をすべて自分が引き受けたい。
その執着にも似た情愛が、一柳の心をじりじりと焼き始めていた。