刻(とき)の断罪 ―真紅の絆―
「あの男のことは、一日たりとも忘れたことはなかった」
脳裏に、凍てつくような冬の夜の記憶が鮮明に蘇る。
身寄りを亡くし、放り込まれた児童養護施設。
中学生になったばかりの冬、平穏は突如として破られた。
深夜、施設を襲撃した人身売買組織。
子供を商品として売りさばくため、彼らは獲物を狩る獣のように現れた。
止める職員を凶器で脅し、歯向かう大人を次々と殴り倒す。
地獄絵図のような光景に、一人の少女は無我夢中で逃げ出した。
「待て、逃がさねえぞ!」
狂ったような目つきで追いかけてきたのは、組織に加担していた若き日の大慈だった。
死に物狂いで夜の街を駆け抜け、大慈の追跡を振り切った少女は、公園の茂みに身を潜めて震えていた。
「どうしたんだい? こんな夜更けに」
優しい声にふと顔を上げると、彫りの深い顔立ちの紳士が心配そうに覗き込んでいた。
素足に薄着、極寒の空の下でガタガタと震える少女を、紳士は何も言わず自分のコートで包み込み、そっと抱きかかえてくれた。その温もりに安心して、彼女は深い眠りに落ちてしまった。
目が覚めると、そこは見たこともない豪華な部屋だった。
紳士の名は月永宗次郎(つきなが・そうじろう)。巨大コンツェルン「月永グループ」の会長だった。
その隣には、当時の社長・月永尊(たける)がいた。尊は結婚して十五年、妻の体が弱く子供に恵まれないことを打ち明け、「養女として迎え入れたい」と申し出た。
すぐには返事ができなかった。だが、月永グループの強大な力を手に入れれば、あいつらに復讐できる。
少女は、己の人生を捨て、復讐の鬼として生きる決意を固めたのだ。
