刻(とき)の断罪 ―真紅の絆―

美弥子がいなくなったことを、翔への「売却」が成立したと勘違いした大慈は、さらに増長して翔を脅しにかかった。
「美弥子を匿ってるのは分かってるんだぜ。もっと融資しろ。さもなきゃ、お前が人身売買組織と繋がってるとネットでバラしてやる!」

だが、先に動いたのは翔だった。翌朝の週刊誌には、大慈が過去に国際的な犯罪組織に関与し、人身売買を行っていた事実が、生々しい証拠と共に掲載された。
「な、なんだこれは…。誰が漏らした!」
半狂乱の大慈は、昔の仲間に電話をかけ、真相を問い詰めようとした。
だが、その会話は何者かによって盗聴されており、リアルタイムでネット上に拡散された。大慈の卑劣な肉声が、自らの罪を証明する刃となったのだ。

そこへ追い打ちをかけるように、美弥子の代理人から離婚申し立てが届く。大慈の暴言や暴力、そのすべてが証拠として突きつけられた。代理人は告げた。
「接近禁止命令が出ています。DVの事実が明白な以上、あなたは彼女に二度と近づけません」

すべてを失った大慈の理性を、最後の怒りが焼き切った。
「月永翔……貴様か! 貴様が美弥子をそそのかしたんだな!」
血走った目で叫びながら、大慈は月永グループの本社ビルへと乗り込んだ。警備員の制止を力任せに振り切り、ロビーの床を荒々しい足音で踏み鳴らす。その姿は、手負いの獣そのものだった。
「出てこい翔! 殺してやる!」
狂乱する大慈の前に、一人の女性が音もなく立ちはだかった。彼女の瞳には、十五年という月日が育んだ、漆黒の殺意が宿っていた。

「…美浜大慈。ようやく見つけたわ」
「誰だ、お前は」

高校生だった彼女の家を、大慈たちの組織が襲い、骨董品を盗むために家族を惨殺したあの日。
彼女だけが捕らえられ、異国で人身売買の犠牲となり、家畜のように扱われてきた。

「…私は、あなたを殺すためだけに地獄から這い上がってきたのよ」
「ふん、昔のことなんか忘れたよ。生きて帰れたんだから感謝しろ」

悪態をつく大慈に、女性は迷いなく銃口を突きつけた。
「…あ、おい、やめろ……冗談だろ……」

逃げようとする大慈の背中に、乾いた銃声が響いた。
崩れ落ち、鮮血に染まる大慈。駆け寄る警備員とサイレンの音。
女性は銃を落とし、空を見上げて狂おしく、そして晴れやかに笑った。

「…これで、やっと家族の元へ行ける…」

瀕死の大慈が救急車で運ばれていくのを、翔は高層階の窓から冷然と見下ろしていた。
「…一人目だ。兄さん、次は…京太郎だ」

復讐のチェス盤の上で、最初のキングが血の海に沈んだ。
翔の瞳には、まだ消えない復讐の炎が、静かに、けれど激しく燃え続けていた。
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