零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――
五限の変装理論は、白鷺の独壇場だった。

鏡張りの教室に、帽子、眼鏡、ネクタイ、上着、ノート、包帯までずらっと並んでいる。普通の中学なら、家庭科室でもここまで道具はない。

担当の先生が言った。

「顔を変えるな。印象を変えろ。三分で“保健室帰り”“図書委員”“優等生”のどれかになれ」

「優等生って衣装でなるもんなんですか」

そう俺が言っている側で、白鷺はわずか三分で、ほんとに別人みたいになった。前髪を分けて、眼鏡をずらして、背中を少し丸めただけなのに、さっきまでのこいつじゃなく見える。

火村はなぜか包帯を使いすぎて、完全に大げさな負傷兵になっていた。

大河内はネクタイをきっちり締めたら、ただの無口な大男から、きっちりしすぎて逆に怖い風紀委員みたいになった。

俺は眼鏡をかけて、ノートを抱えてみた。

白鷺が俺を見て、真顔で言った。

「ただの有馬に眼鏡」

九条が続けた。

「視力の悪い有馬だな」

「言い方!」

担当の先生が首を横に振った。

「有馬。歩き方も表情もいつものままだ。変装は布ではなく癖を変えることだ」

「そんな器用なこと急に言われても」

「だから授業だ」

火村が急にしゃきっとした歩き方を始めたと思ったら、ポケットからドライバーが落ちて一発で正体がばれた。

大河内は姿勢をよくしすぎて、逆に目立っていた。

白鷺だけが楽しそうだった。ほんとにこいつ、変装が好きなんだなとわかった。好きの方向が厄介だけど。
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