零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――
六限の模擬射撃に入ったとき、俺はちょっとだけほっとした。

「やっとわかる授業が来た」

訓練場の扉の前でそう言ったら、九条が横で言った。

「その感想がいちばんおかしい」

「普通じゃないのはもう知ってる」

訓練場は思ったより広くて、的は丸い紙だけじゃなかった。横に滑る小板、上から落ちる円盤、小さく揺れる金属片。射的屋よりだいぶ本格的なのに、見た瞬間だけは妙に落ち着いた。

白鷺は構えだけ無駄にきれいで、肝心の的を外した。

火村は銃の構造が気になりすぎて、撃つ前に分解しようとして怒られた。

九条は堅実に当てたけど、完璧ではなかった。

大河内は一発一発が重くて、的そのものがびくっと揺れた。

俺の番が来ると、息が自然に整った。

構える。線を読む。ぶれを消す。

それだけだった。

固定の的が落ちた。動く小板が落ちた。揺れる金属片が鳴って、最後の小さな円盤まで落ちた。

「……え」

白鷺の声が、後ろで変なふうに裏返った。

追加で出た小さい的も、反射で撃ったら落ちた。

篠宮教官が記録板を見ながら、短く言った。

「全弾命中」

火村が身を乗り出した。

「何見てるの!?どこで判断してるの!?」

「どこって……落ちる線」

「説明が有馬!」

九条が腕を組んだまま言った。

「これだけは文句なしだな」

「これだけって付けるなよ」

大河内が少しだけ目を見開いていた。

「……すごい」

その一言は、なんか妙にうれしかった。

白鷺は肘で俺の腕をつついた。

「有馬、そこだけ急に主人公みたいになるのずるい」

「そこだけって言うなって!」

篠宮教官は淡々としていたけど、最後にひとことだけ言った。

「有馬。不得手を嘆くのは後だ。使える武器を先に磨け」

それはたぶん、励ましだった。
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