零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――
そのあとも、俺たちはしばらく西回廊を見ていた。
A班は見張りの歩数を完全に数えにいってるらしく、紙にびっしり何か書き込んでいた。
B班は一人が見張りに話しかけ、もう一人が自然な顔で近づこうとして、あっさり止められていた。自然じゃなかったんだろう。
C班は外から窓を狙ったらしく、どこかで小さな物音がして、上級生が二人まとめてそっちへ視線を向けた。豪快だな、と思った。
そのたびに俺は見張りの目の動きを追った。
真正面を見てる時間。
物音に引っ張られる時間。
扉の取っ手を見る癖。
足元へ落ちる視線。
そして、その全部からこぼれる三歩。
九条が低く言った。
「有馬」
「ん?」
「もう一度言え。死角はどこからどこまでだ」
俺は廊下を指でなぞった。
「振り子時計の横から、飾り棚の手前まで。三歩。たぶん四歩は無理」
九条は数秒だけ黙っていた。それから、悔しそうでも感心したようでもある顔で言った。
「……使えるな、その目」
「褒めてる?」
「半分だけ」
白鷺が口をはさんだ。
「じゃあ決まりじゃない?あそこ使おうよ」
「だから、その“使う”の中身が問題だ」
俺が言うと、火村がもう鏡を出していた。
「小型鏡で中をのぞいて、糸で――」
「糸から離れろ!」
大河内が静かに言った。
「……俺、前に出る」
「またおとりか」
「見つかったら、引く」
その言い方が妙にまっすぐで、俺は少しだけ引っかかった。
「大河内」
「ん」
「一人で行く前提なの、やめろ」
大河内が俺を見た。言われると思ってなかったみたいな顔だった。
「……でも」
「でもじゃない。捕まる役だけ押しつけるの、班じゃないだろ」
言ったあとで、自分でもちょっと驚いた。
白鷺が目を丸くした。
火村は鏡を持ったまま止まっていた。
九条だけが、いつも通りの顔で言った。
「有馬にしてはまともなことを言う」
「にしてはをつけるな」
でも、その一言で空気が少しだけ変わったのはわかった。
さっきまで、みんな自分の得意なことだけを前に出していた。変装したい白鷺、考えたい九条、作りたい火村、前に出たい大河内。俺だってそうだった。見たものだけを言って、あとは知らないふりをしていれば楽だった。
でも、それじゃたぶんだめなんだと思った。
A班は見張りの歩数を完全に数えにいってるらしく、紙にびっしり何か書き込んでいた。
B班は一人が見張りに話しかけ、もう一人が自然な顔で近づこうとして、あっさり止められていた。自然じゃなかったんだろう。
C班は外から窓を狙ったらしく、どこかで小さな物音がして、上級生が二人まとめてそっちへ視線を向けた。豪快だな、と思った。
そのたびに俺は見張りの目の動きを追った。
真正面を見てる時間。
物音に引っ張られる時間。
扉の取っ手を見る癖。
足元へ落ちる視線。
そして、その全部からこぼれる三歩。
九条が低く言った。
「有馬」
「ん?」
「もう一度言え。死角はどこからどこまでだ」
俺は廊下を指でなぞった。
「振り子時計の横から、飾り棚の手前まで。三歩。たぶん四歩は無理」
九条は数秒だけ黙っていた。それから、悔しそうでも感心したようでもある顔で言った。
「……使えるな、その目」
「褒めてる?」
「半分だけ」
白鷺が口をはさんだ。
「じゃあ決まりじゃない?あそこ使おうよ」
「だから、その“使う”の中身が問題だ」
俺が言うと、火村がもう鏡を出していた。
「小型鏡で中をのぞいて、糸で――」
「糸から離れろ!」
大河内が静かに言った。
「……俺、前に出る」
「またおとりか」
「見つかったら、引く」
その言い方が妙にまっすぐで、俺は少しだけ引っかかった。
「大河内」
「ん」
「一人で行く前提なの、やめろ」
大河内が俺を見た。言われると思ってなかったみたいな顔だった。
「……でも」
「でもじゃない。捕まる役だけ押しつけるの、班じゃないだろ」
言ったあとで、自分でもちょっと驚いた。
白鷺が目を丸くした。
火村は鏡を持ったまま止まっていた。
九条だけが、いつも通りの顔で言った。
「有馬にしてはまともなことを言う」
「にしてはをつけるな」
でも、その一言で空気が少しだけ変わったのはわかった。
さっきまで、みんな自分の得意なことだけを前に出していた。変装したい白鷺、考えたい九条、作りたい火村、前に出たい大河内。俺だってそうだった。見たものだけを言って、あとは知らないふりをしていれば楽だった。
でも、それじゃたぶんだめなんだと思った。