零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――
翌朝、教官たちの空気は、露骨なくらい変わっていた。
みんな規則より先に周囲を見ていた。西回廊へ続く角には見張りが増え、事務棟の前には見慣れない大人が立っている。すれ違う上級生まで、どこか張っていた。

白鷺がひそひそ声で言った。

「一気にスパイ学校っぽくなったねえ」

「昨日までも十分だっただろ」

食堂に入った瞬間、空気がまた変わった。

ざわついてはいるのに、声が全部ひそひそで、しかも俺たちが入ったところだけ、ぴたりと薄くなった。A班の一年がこっちを見て、すぐ隣のやつに何か言う。B班のやつは、露骨に目をそらした。C班のやつは、こそこそするくせに、こっちを気にしているのが丸わかりだった。

こっちは試験を成功させたはずなのに、何かを疑われてる感じだった。

「有馬、顔がまた全部しゃべってる」

白鷺が言った。

「ほっとけ」

朝食のトレーを持って席についたとたん、篠宮教官が来た。

「零班。食後、指導室だ」

白鷺がパンを持ったまま聞いた。

「おかわりしてからでも?」

「するな」

「はい」

即答すぎてちょっと笑いそうになったけど、笑えなかった。

指導室には、篠宮教官のほかに、知らない眼鏡の教官がいた。顔が四角くて、声まで四角そうな人だった。

「座れ」

言われて座ると、篠宮教官が口を開いた。

「昨夜、校長室の絵の裏にある隠し金庫から、黒い封筒が盗まれた」

続けて、眼鏡の教官は最初から疑ってる顔で言った。

「昨夜、校長室に入ったのは零班だけだ」

白鷺が口を開いた。

「試験で入れと言われたんですけど」

「白鷺」

篠宮教官の一言で、白鷺が口を閉じた。

眼鏡の教官は続けた。

「結果的に、現場にいたのはお前たちだ。赤い封筒以外に手を触れたか。持ち出したものはないか」

「ありません」

俺はすぐに言った。

「黒い封筒なんて知らないですし、赤い封筒以外は持ち出してないです」

結局、俺たちは一通りの証言を取られて解放された。最後に眼鏡の教官が言った。

「今後、勝手な行動は慎め。現時点で、お前たちも疑いの外にはいない」
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