零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――
白鷺が廊下に出た瞬間、肩を落とした。
「“お前たちも”って、ほぼ“お前たちだ”の言い換えじゃない?」
「笑えないんだよ、それ」
「わかってるよ」
白鷺の声も、いつもより少し低かった。
階段を下りたところで、A班の一年が三人ほど立っていた。俺たちを見るなり、わざとらしく道を空ける。
「どうぞ、零班」
その言い方が、すでに感じ悪かった。
もう一人が笑った。
「昨日の試験、零班だけ追加問題つきだったんだって?校長室の備品持ち出し」
白鷺がすぐ返した。
「自分たちの班が負けたからって、突っかかってくるなよ」
「そんなつもりないけど?」
「感じ悪っ」
別のやつが俺を見た。
「有馬、お前、射撃はすごいらしいけどさ。狙うのは的だけにしとけよ」
俺は反射で言い返しかけて、やめた。
言い返したところで、証明にはならない。
しかも、校長室に入ったのは事実だ。赤い封筒を取ったのも事実だ。
何もやってないのに、何も言い返せない。
そういうのが、いちばん腹が立った。
A班のやつらが去ったあと、白鷺が俺の横顔をのぞいた。
「ほんとにへこんでる」
「うるさい」
「へこむなとは言わないけど、その顔で歩くと“犯人です”って札が見える」
「最悪の助言だな」
九条が前を向いたまま言った。
「でも合ってる」
「お前も言うな」
そのまま南離れへ戻ろうとしたときだった。
本校舎の職員室前の廊下で、扉が少しだけ開いていた。中では、複数の大人の声が重なっている。普段なら聞き流したと思う。でも、その朝の俺たちは全員、耳がそっちを向いた。
「黒い封筒の中身は地下施設の見取り図と、校外連絡用の暗号表です」
低い男の声だった。
別の声がすぐ返した。
「どこまで載っている」
「地下区画の主要動線はほぼ全域。暗号表は現行のものです」
「最悪だな……」
また別の声。
「学外に流れれば、本校がただの全寮制名門校では済まなくなる」
「表の顔が剥がれる、ということです」
「中等部の試験の混乱に乗じて盗られたのなら、内部事情に通じた者の犯行だ」
心臓が、どくんと鳴った。
地下施設の見取り図。
校外連絡用の暗号表。
それが外に出るってことは、つまり――。
俺が思ったことを、白鷺が小声で代わりに言った。
「それ、ばれたらこの学校、ただの名門男子校のふりできないやつじゃん」
九条が低く答えた。
「要するに、スパイ学校だと外に割れる」
火村が青くなった。
「俺の歓迎装置でごまかせる規模じゃない」
「最初からごまかせないし、そこで張り合うな!」
そのとき、職員室の中で椅子が引かれる音がした。俺たちは反射で廊下の角まで下がった。扉はすぐ閉まり、会話は聞こえなくなった。
「“お前たちも”って、ほぼ“お前たちだ”の言い換えじゃない?」
「笑えないんだよ、それ」
「わかってるよ」
白鷺の声も、いつもより少し低かった。
階段を下りたところで、A班の一年が三人ほど立っていた。俺たちを見るなり、わざとらしく道を空ける。
「どうぞ、零班」
その言い方が、すでに感じ悪かった。
もう一人が笑った。
「昨日の試験、零班だけ追加問題つきだったんだって?校長室の備品持ち出し」
白鷺がすぐ返した。
「自分たちの班が負けたからって、突っかかってくるなよ」
「そんなつもりないけど?」
「感じ悪っ」
別のやつが俺を見た。
「有馬、お前、射撃はすごいらしいけどさ。狙うのは的だけにしとけよ」
俺は反射で言い返しかけて、やめた。
言い返したところで、証明にはならない。
しかも、校長室に入ったのは事実だ。赤い封筒を取ったのも事実だ。
何もやってないのに、何も言い返せない。
そういうのが、いちばん腹が立った。
A班のやつらが去ったあと、白鷺が俺の横顔をのぞいた。
「ほんとにへこんでる」
「うるさい」
「へこむなとは言わないけど、その顔で歩くと“犯人です”って札が見える」
「最悪の助言だな」
九条が前を向いたまま言った。
「でも合ってる」
「お前も言うな」
そのまま南離れへ戻ろうとしたときだった。
本校舎の職員室前の廊下で、扉が少しだけ開いていた。中では、複数の大人の声が重なっている。普段なら聞き流したと思う。でも、その朝の俺たちは全員、耳がそっちを向いた。
「黒い封筒の中身は地下施設の見取り図と、校外連絡用の暗号表です」
低い男の声だった。
別の声がすぐ返した。
「どこまで載っている」
「地下区画の主要動線はほぼ全域。暗号表は現行のものです」
「最悪だな……」
また別の声。
「学外に流れれば、本校がただの全寮制名門校では済まなくなる」
「表の顔が剥がれる、ということです」
「中等部の試験の混乱に乗じて盗られたのなら、内部事情に通じた者の犯行だ」
心臓が、どくんと鳴った。
地下施設の見取り図。
校外連絡用の暗号表。
それが外に出るってことは、つまり――。
俺が思ったことを、白鷺が小声で代わりに言った。
「それ、ばれたらこの学校、ただの名門男子校のふりできないやつじゃん」
九条が低く答えた。
「要するに、スパイ学校だと外に割れる」
火村が青くなった。
「俺の歓迎装置でごまかせる規模じゃない」
「最初からごまかせないし、そこで張り合うな!」
そのとき、職員室の中で椅子が引かれる音がした。俺たちは反射で廊下の角まで下がった。扉はすぐ閉まり、会話は聞こえなくなった。