零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――

第七章「秋月先輩を追え」

尾行って、もっとこう、格好よく始まるものだと思っていた。

少なくとも、放課後の南離れで、白鷺が俺の顔に丸眼鏡を押しつけながら「はい、有馬は地味な図書委員」と言ってきた時点で、俺の想像していたやつとはだいぶ違っていた。

「ただの有馬に眼鏡だろ」

「違う違う、知性が三割増し」

「元が何割だよ」

白鷺はもう自分の変装を終えていた。前髪を分け、腕に図書委員の腕章まで巻いている。立ち方まで変わっていて、さっきまでの白鷺がすっかり薄くなっていた。

「どう?」

「腹立つくらいうまい」

「ありがとう」

「褒めてない」

火村は机の上に、またろくでもないものを広げていた。帽子のつばに小さい鏡がついたやつ、耳当てみたいな形の筒、なぜか洗濯ばさみで留めた針金。

「こっちが後方確認帽、こっちが集音筒、こっちが――」

「いらない」

俺と九条の声がまたきれいに重なった。

白鷺がにやっとする。

「はいはい、最悪の一致」

九条は気にせず言った。

「尾行に必要なのは距離と間隔だ。余計な装備は捨てろ。合図は指二本で停止、一で右、拳で退避」

火村が帽子を抱えたまま聞いた。

「三本は?」

「使わない」

「じゃあこの帽子の出番は?」

「ない」

「厳しい」

大河内は黙って帽子を見ていたけど、ぽつりと言った。

「……入らない」

「豪にそのサイズは無理だよねえ」

白鷺が笑う。

「じゃあ豪はそのまま。むしろ隠すな。隠れると逆に怖い」

「隠れないのも怖いだろ」

俺が言うと、九条が地図みたいに廊下を描いた紙を机に置いた。

「秋月先輩は放課後、二年棟から旧資料棟側へ動くことが多い。西回廊へ行く前に押さえる。白鷺が前、有馬と火村が中間、大河内が後ろ。僕は全体を見る」

「俺、間の役か」

「正面に出すと顔がしゃべる」

「お前、言い方!」

白鷺がぱんと手を叩いた。

「よし、零班尾行作戦開始!」

「その言い方、もう失敗しそうなんだよ」
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