零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――
古い閲覧室だった。本棚が二つ、丸机が一つ、窓辺に細長い机。夕方の光が斜めに入っていて、ほこりが白く見える。静かなのに、俺たちだけがうるさかった。

秋月先輩は扉を閉めると、机にもたれた。

「で。僕を尾けてた理由、聞いていい?」

白鷺が俺を見た。

火村も俺を見た。

大河内まで俺を見た。

なんでそこで全部こっちに振るんだよ、と思ったけど、ここで回りくどく言える気もしなかった。

「……黒い封筒、先輩が盗ったんですか」

白鷺が頭を抱えた。

「有馬!」

九条は低く言った。

「直球すぎる」

「回りくどく聞けないんだよ!」

秋月先輩は少し驚いた顔をして、それから小さく息を吐いた。

「なるほどね」

その言い方が、変に落ち着いていて、逆にこっちが焦った。

「まず言っておくけど、僕は盗ってない」

九条がすぐ聞く。

「証拠は」

「昨日、君が見た影の二歩後ろにいた」

俺は思わず顔を上げた。

秋月先輩は続けた。

「西回廊の死角を抜けた影を見つけて、そのまま脇の回廊へ入った。君たちが見たのは、そのあとに出てきた僕だよ」

「じゃあ、あの箱は」

大河内が短く言った。

秋月先輩は机の上の書類箱をとんと叩いた。からん、と軽い音がした。

「これ。偽装用」

白鷺が目を丸くする。

「空なの!?」

「手ぶらでうろつくより、書類箱を持ってるほうが自然だから」

俺は思わず言った。

「重そうに持ってましたよね」

「軽そうに持つと逆に不自然なんだよ」

「この学校、不自然の基準が高すぎるだろ」

秋月先輩は少しだけ笑った。

「それは同意する」

九条はまだ警戒を解かなかった。

「どうして偽装までして、あの辺をうろついていた?なぜ黒い封筒の存在を、知っている?」

秋月先輩の顔から、笑いが少し消えた。

「調べたかったからだよ、校長室を」

部屋の空気が、すっと締まった。

「なんで、ただのエリート校を装ってまで、スパイ養成学校として存在してるのか?とか」

俺は喉の奥が少し乾くのを感じた。

「君たちが犯人だとは思ってない」

俺は反射で聞き返した。

「なんでですか」

「犯人なら、今日の尾行が下手すぎる」

白鷺がまた笑った。

「それ、うれしくないけど安心はする」

「あと、昨日の君たちは赤い封筒に一直線だった。金庫のほうを見る余裕なんてなかったはずだ」

たしかにそうだった。

俺たちは赤い封筒を取るのに必死で、絵の裏の金庫を見つけたのも、大河内が額縁を支えた偶然みたいなものだった。

九条が低く言った。

「では、先輩は誰が盗んだと思っているんですか」
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