零班は落第寸前!――名門男子校は秘密のスパイ養成学校でした――

第八章「零班、はじめて一つになる」

問題は、真砂先輩が怪しいとわかったところで、俺たちが急に優秀な追跡班になったわけじゃないことだった。

閲覧室を出ると、ちょうど廊下の向こうを銀の生徒会章が横切った。真砂迅先輩だった。姿勢はきっちり、歩幅は一定、相変わらず歩く校則全文みたいだった。

「今だね」

白鷺がすぐ言った。

「待て。距離を取れ」

九条もすぐ言った。

「待ってるうちにいなくなるだろ」

「近づきすぎると向こうに悟られる」

「お前は遠すぎるんだよ」

「火村、変なものを出すな」

「まだ出してない!」

「鞄の中で金具が鳴った」

「聞こえるの!?」

大河内が低く言った。

「……行く」

「もういい、行こう」

俺たちは、まとまりきらないまま真砂先輩のあとを追った。

真砂先輩は本校舎の回廊をまっすぐ進み、旧資料棟へ続く渡り廊下を抜け、そのままさらに奥の旧校舎西廊下へ入っていった。あのへんは昼でも人が少ない。夕方になると、なおさら静かだった。

「白鷺、前に出るな」

「出てない出てない」

出てた。

「火村、その帽子なんだ」

「後方確認帽」

「しまえ」

その横で大河内が柱に寄ろうとして、柱より目立っていた。

「豪、隠れてるつもり?」

「……つもり」

「正直でよろしいけど隠れてはない!」

俺はつっこみながらも、真砂先輩から目を離さないようにした。けど、九条の合図と白鷺の動きが噛み合わない。火村の鞄は時々かちゃっと鳴るし、大河内はでかいし、俺は俺で、どの距離が正解かいまいちわからなかった。

真砂先輩が旧校舎西廊下の角を曲がった。

俺たちも数秒遅れて曲がった。

そして、全員で止まった。

「……え?」

突き当たりだった。

長い廊下の先には、古いガラスの展示戸棚と、創立期の写真が入った額がいくつか、細い窓、壁灯、それだけだった。左右に曲がる場所も、開いた扉もない。

なのに、真砂先輩の姿だけがなかった。

「消えた!?」

白鷺が声を裏返らせた。

「うるさい」

九条が即座に切った。

「いやでも、今のは普通に消えただろ!」

「普通ではないから追っている」

「そこを平然と言うなよ!」

火村が展示戸棚を見た。

「隠し扉とか?」

「いきなり当たりを引くな」

俺が言ったそのとき、廊下の反対側から足音が近づいた。見回りか、上級生か、とにかくまずい。

「こっち」

九条が低く言って、すぐそばの旧音楽準備室に俺たちを押しこんだ。
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