人形姫と秘密のお役目 -1-
 聞こえていないふりをすることには慣れている。だから、私は視線を前に向けたまま、何も返さずにそのまま時間が過ぎるのを待った。

 しばらくして、ひとつの足音が、他とは違う方向からゆっくりと近づいてくる。

 すぐ傍で止まる気配と、ほんの一瞬のためらい。

 それから、控えめに落とされる声。


「あのさ……」


 私はわずかに顔を向ける。

 そこにいたのは、どこか柔らかい雰囲気をまとった女子生徒だった。無理に踏み込もうとしているわけではないけれど、引くつもりもない、そんな自然な距離で立っている。


「その人形、可愛いね」


 声音は明るすぎず、けれどきちんと温度がある。


「……でしょ」


 短く返す。

 それでも、その子は気にした様子もなく、小さく笑ったような気配を見せた。


「なんか、ずっと持ってるよね」

「……うん」

「気になってたんだ」


 あっさりとした言い方だった。責めるでもなく、ただ思っていたことをそのまま口にしただけ、というような自然さ。
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