人形姫と秘密のお役目 -1-
 誰もが触れられるものじゃない。


(だからこそ、余計におかしい。当主様も、このくらい濃いなら視えるはず……)


 これだけのものが、放置されていること自体が異常事態。


(……このままじゃ、まずい)


 確信だけが、はっきりと残る。

 理由はいらない。

 これは、放っておいていいものじゃない。

 周りの人も、道具にも、黒いもやが薄くまとわりついている。


「じゃあ行くわよ」


 その一言で、意識が試合へと引き戻される。

 視界の奥に広がる黒いもやは消えず、むしろはっきりと実態を持ったまま、空間のあちこちでゆらゆらと揺れている。

 手に持っているシャトルにも、それは絡みついていた。


(……だけど、人の目もあるし、範囲が広いから完全には祓いきれない。なら……)


 そう判断するまでに、時間はかからなかった。

 完全に祓えないのなら、せめて濃いところから削ろう。 

 ラケットを握る手に、意識を向ける。
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