人形姫と秘密のお役目 -1-
 静かで、無口で、感情の起伏(きふく)もあまり見えない。

 けれど、不思議と人を拒絶する冷たさはなく、話しかけられればちゃんと答えるし、頼まれごとも断らない。

 最初こそ近寄りがたい空気があったはずなのに、気づけばクラスの中心にいる朝比奈が、当たり前みたいにあの子の隣にいるようになっていた。

 明るくて、人懐っこくて、誰とでもすぐ打ち解ける。

 そんな朝比奈は、少女の閉じた静かな世界にも、遠慮なく、それでいて不思議と踏み込みすぎない距離で入り込んでいく。

 ひとりで喋って、ひとりで笑って、時々軽くあしらわれて、それでも全然めげない。

 けれど、そんなやり取りをしているときの彼女は、ほんの少しだけ空気が柔らかく見えた。

 表情が大きく変わるわけじゃない。

 それでも、いつものどこか張り詰めた静けさが、わずかにほどける瞬間がある。

 その変化に気づいているのは、案外少ないのかもしれない。


(……いや、気づいてしまうくらいには、俺があの子を見ているだけか)
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