人形姫と秘密のお役目 -1-
 振り返らずにそう告げると、一瞬だけ迷うような気配があったものの、やがて足音が遠ざかっていった。

 妖魔が警戒するように殺気をビリビリと放ちながら低く唸る。


『邪魔をするな』


 その言葉にも、私は何も返さず、ただ静かに立ち続ける。 

 沈黙を探るように、妖魔の気配が変わった瞬間、空気がずん、と重く沈んだ。


『……貴様』


 ゆらりとこちらを向く。


『よもや、夜桜の者か?』


 私は答えなかった。

 だが、妖魔は確信したように歪んだ笑みを浮かべ、そのまま腕を振り上げる。

 避けようとするが、どこから攻撃が来るかわからない。蒼真の指示があるとはいえ時差がある。

 やっぱり人形越しでは、位置も間も、すべてが曖昧で掴みきれない。もっと言うならば、妖魔の存在が掴めない。

 今は、禍々しい気配を感じ取って行動しているがこれだと不利だ。


(……自分の目で、視ないと)


 そう結論に至った瞬間、衝撃とともに土煙が激しく巻き上がり、視界は完全に閉ざされた。
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